【第264回】 足裏で呼吸する

前回の第263回では「足を地に着ける」をテーマに、天の呼吸に合わせるために、足をしっかり地に着けて、体重を縦に落としたり、その抗力で上げるようにしなければならないと書いた。今回はこれをさらに進めて、ここから足裏で呼吸をして、技を掛けるようにする、ということを書いてみたい。

約1700年前に、荘子は「真人の息はこれを息するに踵をもってし、衆人はこれを息するに喉で呼吸する」と言っているという。しかし、誰でもはじめは、踵や足裏で呼吸などできるはずがなく、そのように呼吸をするようイメージするという意味だと思うだろう。

しかしながら、武道の体が出来てきてその体が使えるようになり、「天の呼吸」に自分の呼吸と体を合わせることが出来るようになってくると、踵で呼吸をしているという実感を持つようになるようだ。ただし、歩くときも技を掛けるときも、踵がメインではあるが、踵から着いてから足裏をあおって足裏で呼吸をするはずでもあるので、ここでは踵を含む足裏で呼吸するということにする。

足裏で呼吸をする感覚は、下腹部の腹圧と足裏の交流からくる。足が地に着くと、その上にある下腹部、所謂、丹田に圧が掛かり、地を離れると腹圧が下がるという圧縮ポンプのような働きが下腹にはあるが、これは足裏の呼吸でしか感じられず、ノドの呼吸では感じられないはずである。

この足裏での呼吸を、「天の呼吸」に合わせるのである。縦の呼吸がしっかりすると、体も安定し、そして横にも動きやすくなる。地に足裏が着いたら下腹の息がちょっと抜ける。そうすると足首、膝、股関節が少し緩み、柔軟になる。次に下腹に息を入れながら、足裏で地を押すが、足首、膝、股関節が緩んでくるので、撞木、入り身、転換などで反(かえ)すことが無理なくできる。
足裏で呼吸をしないで、ノドで呼吸をすると、足首、膝、股関節などは突っ張ってしまい、うまく反えらないはずである。無理に反えせば、膝や腰を痛めることになる。

技の練磨を通して、足裏で呼吸することを、身につけていかなければならないだろう。足裏でしっかり呼吸をし、「天の呼吸」に合わせれば、技を掛けた相手もそれに合わせて動いてくれるようになる。

しかし、その感触を相対稽古で掴むのは、難しいかもしれない。その時は、いつものように自主稽古でやることである。仲間と研究し合う事である。

また、家で四股を踏むことをお勧めする。足裏をしっかり地に着けて、天と地を結び、下腹の息を出しながら重心を落とす。そして、下腹に息を入れながら体を沈めると、反対側の足が自然に横に上がってくる。足裏で体の上下の感覚、そして上下により横が動く感覚がよく分かるし、足裏で下腹のポンプを減圧しながら呼吸していることが、よく分かるだろう。ノドで呼吸したり、上腹で呼吸すれば、体は不安定になり、足は上がらず、ひっくり返ってしまうだろう。呼吸は足裏でやらなければならないはずである。