【第201回】 土踏まず

技は足で掛けるともいえるように、足の働きは想像以上に重要である。足は、体の上肢、胴体(体幹)、下肢の三大構成部の一つであるが、この足には多くの大切な部位がある。というよりも、その一部でも機能しなかったり、機能が鈍れば、思うように体は動かないし、技も効かないことになる。

足のうちでも、足底は重要な足の部位である。足底は足の一番下にあり、地と接している。そして、体重を支え、進行方向を決め、体重を移動し、前後左右に倒れるのを抑え、さらに上下左右の衝撃を吸収する。この働きをスムーズにしてくれるのが、「土踏まず」である。

「土踏まず」は、
@拇指球
A小指球
B踵(骨)
の三点で形成されており、また拇指球と小指球で横のアーチ(横アーチ)、拇指球・小指球と踵で縦のアーチ(縦アーチ)の、二つ(又は三つ)のアーチを形成している。「土踏まず」はこの三点で形成されているが、その三点から成る三角形の線とアーチを如何に上手く活用出来るかが、重要なようである。

@の拇指球とAの小指球の横の線は、体の前後の揺れを安定させている。入り身で前に踏み込んだり、入り身転換する時など、この線が重要な働きをする。それ故、拇指球や小指球がふにゃふにゃでは体の揺れを支えきれないから、タコができるくらいの鍛錬が必要であろう。この拇指球や小指球がしっかりしていないと、本来はここの線に掛かる体重が指先にかかるので、指先を痛めたり、疲れたりするだけでなく、負担が膝にまで及ぶことになる。

厳周伝柳生新陰流では、拇指(足の親指)を常に立てて剣を遣うが、この拇指球を鍛えることと「土踏まず」のアーチを大事にするということだろう。(後述)

Aの小指球とBの踵の線(アーチ)は、体の向きを変えたりひねったりするのを制御する。合気道での基本的な歩の進め方は撞木であり、前足に体重を乗せていく。足が地に着いたとき、後ろ足は撞木になって体の向きを変えるので、体重は外側のこの線に集まることになり、その抗力で次の足を進めることになる。スケートを考えると分かりやすいだろう。

@の拇指球とBの踵の線は、自分の進行方向を決めるものであり、この線上に重心を乗せて進まなければならないだろう。従って、進む際は拇指球の部分に力がかかるので、足袋ならばここに穴があくはずである。また、名人達人の下駄の減り方も外側ではなく、どちらかというと内側のはずである。(勿論、平均で減るのが最良)

足は撞木で三角法で進めなければならないので、両足のこの線が三角形になっていなければならない。簡単に言うと、前の足のこの線を下げたところが後ろ足の拇指球と踵の中間点にこなければならないだろう。また、拇指球と踵の線の土踏まずは、太ももの外側と繋がっているので、体の左右の揺れをコントロールするといわれる。

「土踏まず」の一般的な特徴は、アーチであろう。アーチがないのを偏平足といい、疲れたり、膝などを痛めやすくなるので、アーチはなければならないし、このアーチを上手く遣わなければならないだろう。

「土踏まず」は人間以外にはないという。それも、四つん這いの赤ん坊にはなく、二足歩行をするようにならないと形成されないという。つまり、この「土踏まず」は二足歩行に便利なように形成されているということになる。また逆に、「土踏まず」を遣わなかったり、上手く遣わないと、歩行がスムーズに出来ないことになろう。よく言われることとしては、ハイヒールを長時間履いたり、窮屈な靴をはくと、アーチがなくなって偏平足になったり、外反母趾などの弊害が出るそうである。

「土踏まず」にアーチをつくるひとつの方法は、足の指を締めることだろう。そうすることによって、自然にアーチができる。その意味でも鼻緒のある下駄や草履をはいて歩くのはよいはずである。

武道的には、呼吸に合わせて「土踏まず」を高く張ったり、逆に地に密着させることがある。この高低が、体重を吸収したり、地と密着し、地と一体化させるのだと考える。

「土踏まず」にアーチがなかったり、低すぎると、動いた時の自分の体重を「土踏まず」のアーチが受けずに、もろに膝で受けることになるようで、このために膝を壊してしまうのではないかと思う。自分の体重を下肢で支えようとすると、支える部位は、股関節と膝と「土踏まず」と言えるだろう。支えるということは、そこがクッションになるということだろう。このうちの「土踏まず」がクッションの役割を果たせなければ、膝か股関節にその役割が回ってくるわけだが、その役割は「土踏まず」の近くの膝にまず来るということになるだろう。

膝を痛めないためにも「土踏まず」をつくらなければならないことになる。