【第612回】  天の呼吸、地の呼吸

前回第611回の「次の次元の合気の道へ」で、これまで魄(腕力、体力)に頼っていた肉体的・物質的稽古に限界を感じたら、次の次元の稽古に移らなければならないと書いた。

それでは次の次元の稽古とはどのような稽古と、開祖は云われているのかというと、核になるのは「合気道は魂の学びであります」だと思う。それまでの物質的稽古から精神的稽古、魄の稽古から魂の稽古にふりかえるのである。
開祖はこれを、また、「合気は魄を排するのではなく土台として、魂の世界にふりかえるのである」と言われているわけだから、土台になる魄も大事にしなければならないわけである。

さて、魂の学びである、魂の稽古をどうすればいいのかということになる。これまでの魄の力ではなく、目に見えない魂で相手を制したり、導く稽古をすることであろう。
いろいろやらなければならない稽古があるようだが、今回は地の呼吸と天の呼吸の息によって技を生み出す稽古を選んでみる。
それは、開祖が「合気はいつもいう通り、地の呼吸と天の呼吸とを頂いてこのイキによって(略)技を生み出してゆく」と言われているからである。
更に、「天の呼吸即ち日月の呼吸、地の呼吸即ち潮の干満、と四つに分けている。この天と地の呼吸の交流を受けて、立派な人となることを目標に(十字つまり合気である)合気は鍛錬していく(武産合気P92)」とも言われていることから、この天の呼吸と地の呼吸の研究をしたいと思う。

技は天の呼吸と地の呼吸を頂いた息によって掛けなければならない。天の呼吸とは日月、つまり縦の呼吸、地の呼吸は潮の干満の横の呼吸であると考える。そして縦と横の呼吸で十字となる。尚、縦は腹式呼吸、横は胸式呼吸だと考える。

この十字の息づかいを実際どのようにつかうかということになるが、これを片手取り呼吸法で説明してみる:

  1. 息を吐きながら、後ろ足から前足を地につけ、手を開いて出すが、その際、下腹に力を入れ腹を絞り、足下に力(気)を落とす。
  2. 相手が手を掴んだら、手は動かさずに手を開きながら、下腹を緩め、息を入れていくと、下腹から気(力)が上に上がってくる。(天の呼吸)ここで相手は少し浮き上がってくるから、前足から他方の足に重心を移動する。
  3. 気が胸まで上がって着たら、今度は横に息を入れる(引く)。気は胸から横方向(地の潮満)と、また胸・腹から下方向の地(地の呼吸)に流れる。
  4. 胸に気が満ち、相手がくっついているから、地の息(潮の干)で好きな時、好きなところで相手を投げることも抑えることもできることになる。
天の呼吸、地の呼吸というのは、これまでは己の力だけに頼っていたのを、それを土台にして天地の力をお借りするわけである。
この呼吸の効用は顕著で、まず、相手と一体化してしまい、相手に違和感を与えずに、相手がこちらの息、動き、そして技に同調することである。そして更に、相手に反抗心を起こさせないだけでなく、自ら浮き上がり、倒れてくれることである。これまで以上の大きな力、しかも異質の力が出るのである。

この天の呼吸、地の呼吸はこの片手取り呼吸法だけでなく、諸手取呼吸法、坐技呼吸法でも、片手取り四方投げ、天地投げ、それに正面打ち、横面打ちでも同じであり、魂の稽古への道に繋がると考える。