【第731回】 天の呼吸と地の呼吸で体と技をつかう

『合気道の思想と技』の第730回「武技は日月の息と地の息と合わして生む」第732回「月の呼吸、潮の満干の呼吸」で天の呼吸と地の呼吸で体と技をつかわなければならないと書いたが、今回は、もう少し具体的に「天の呼吸と地の呼吸で体をつかう」について研究してみたいと思う。

天の呼吸、つまり、日月の呼吸と地の呼吸、つまり、潮の満干で体と技をつかうということである。
このような新しい技を身に付けるためには、自分の得意で、やり慣れている形で研究するのが基本である。私の場合は、片手取り呼吸法で研究している。その技のつかい方と体のつかい方は、第732回「月の呼吸、潮の満干の呼吸」に書いてあるので省略するが、片手取り呼吸法も諸手取呼吸法も、月の呼吸、潮の満干の呼吸でやれば、これまでと違ったものになり、魄を奪した真の合気道の技に近づくように思える。

天の呼吸と地の呼吸で技をつかえるためには、体が天の呼吸と地の呼吸で機能するようにしなければならない。そして、体が天の呼吸と地の呼吸で機能するためには、体を天の呼吸と地の呼吸で鍛えなければならない。体を鍛えるのは、相対での形稽古での錬磨であるが、これは中々難しいはずである。相手がいると、天の呼吸と地の呼吸で体をつかうことが忘却の彼方に吹っ飛んでしまうからである。
それ故、このために一人稽古で体を鍛えるのがいい。
その方法は、まず、ストレッチ運動である。ストレッチを天の呼吸、つまり、日月の呼吸と地の呼吸、つまり、潮の満干の息づかいでやるのである。
例えば、開脚のストレッチの場合、①天の息を吐いて上体を倒す(日の呼吸)②息を吐きながら締まった腹と対照にある腰を緩める(月の呼吸)③緩めた腰、そして胸から上がってくる気と息に合わせて息を吸い、息と気を腹に満たし、上体を更に倒す(潮満)④更に息を引き、腹と胸に満ちた気と息を息を引き乍ら発散する(潮干)。そして天の息で息を吐くと続く。
開脚だけでなく、すべてのストレッチ運動はこの天の呼吸と地の呼吸でやるのがいいし、これが最良のストレッチ運動であると思う。指先から、手や足の各関節をこのストレッチ運動で柔軟にするのである。

この天の呼吸と地の呼吸は難しいかも知れない。何故ならば、この呼吸の前に、イクムスビの息づかいが出来なければならないからである。イーと吐いて、クーで吸って、ムーで吐く呼吸法である。先ず、イクムスビの呼吸法を身につけるのがいいだろう。このイクムスビの呼吸法は、相対稽古の技でもつかうが、そう難しいことではないので、身に着きやすいはずである。

次に、剣の素振でこの天の呼吸と地の呼吸でやるのである。
初めは剣の素振りを、剣なしの徒手でやるのがいいだろう。正面打ち一教などはこの呼吸の理合いがよくわかる稽古になる。正面打ち一教が何故難しいのか、息づかいの重要性、そしてその奥深さがよくわかるはずである。
剣もこの天の呼吸と地の呼吸と、体が陰陽十字でつかわれなければ、強力な力も素早い動きや無駄のない拍子も出ないものである。剣などの得物をつかうと不味い所がよくわかるものであるから、剣の素振りもいい。
剣の素振りに関連して、居合もこの天の呼吸と地の呼吸でやるといい勉強になる。

もう一つのいい稽古法が四股踏みである。それまで上手くいかなかったが、この天の呼吸と地の呼吸によって、少し上手くいくようになってきたし、四股踏みも天の呼吸と地の呼吸でやらなければならないと分かった次第である。