【第85回】 力が出るために

合気道で技を使うときは、体の表からの力を使わなければならない。体の裏からの力を使うと、大きな力がでないだけでなく、相手と結ぶことが難しい。また裏の力は不自然なものであるから、体に害になる。
体の表とは、四つんばいになったとき陽が当たる面である。背中、腰、大腿二頭筋、ひ腹筋、アキレス腱、踵などの面である。従って、手から出す力は、地面と接する踵から、腰、背中、肩、腕と流れなければならない。

しかし踵から手先までに力(エネルギー)を体の表を通すにしても、より大きな力を、効率的に流すために幾つか注意しなければならない事がある。

一つは体の中心である「腹」に気持ちと力を集中することである。ただし「腹」とは、臍のある腹の表面の腹部ではない。仙骨の二番目の辺りにある丹田と言われるところである。仙骨は下半身のエネルギーを上半身に流す中継点となっている。従ってこの「腹」がしっかりしていないと力が上半身まで上がってこないことになる。

二つには肩を貫くことである。肩が貫けないと、エネルギーが肩で止まってしまい手先までエネルギーが伝わらない。そうすると手先から肩までの手さばきになってしまい、小さな力しか出ないことになる。

三つには「肘を張る」、肘を外側に向けることである。肩を貫けてきたエネルギーは腕を通るが、腕の表、肘側を通さなければならない。肘が脇に向かっていれば力は伝わり難い。この肘の使い方はお能の基本的な形である(写真)。この肘を張った体制はいかにも力が出るような姿である。武士は多分このような姿で歩いていたことだろう。お能は武士の姿を残しているといわれるので、武道を研究する上で参考になるはずである。また、肘を張る姿は、四つんばいになったときの形でもある。腕立てをするときも肘が外側を向くはずである。

4つには、「顎」(あご)の使い方である。まず顎の角度によって背中からのエネルギーの伝わり方は変わってしまう。顎を引き過ぎても、上げ過ぎてもエネルギーは伝わり難くなってしまう。また、顎と手先は結んでいなければ、エネルギーは逃げてしまう。顎と腹、手先と腹が結んでいなければならないので、顎と手先とも結ぶことになる。従って顎の動きと手先の動きは連動していなければならない。フィギアスケートの国際大会で選手の動きを見ていても、手先と顎の動きが連動していると美しく、点数もいいようだ。また開祖が木刀の素振りをしていたビデオを見ても、木刀の上げ下げに合わせるように顎が動いている。顎の角度と手先との連動は重要だ。