【第601回】  怪我をさせないためには

合気道は相対での形稽古で精進していくので、相手に依って、また、時として怪我をするし、相手に怪我をさせてしまう事がある等、その危険性は常にある。例えば、つい相手の手首を二教で痛めてしまったり、四方投げや入身投げて頭を床に打たせてしまうとか、また、隣で稽古している人の受け身の足が頭や顔にあたったり、当ててしまったりする危険性である。

合気道の稽古では、怪我の危険性は常にある。この危険性は避けるのが難しい場合もあるだろうが、大部分は避けることができると思っている。

まず、相対で技を掛け、受けを取り合っての稽古であるから、相対の両人が注意しなければならない。怪我しないよう、そして怪我をさせないように気をつかわなければならない。危険を察知し、その危険を避ける感を働かせるのである。これが武道の基本でもあるだろう。また稽古の相手だけではなく、自分たちの隣、周囲にも気を配らなければならない。特に、ここで気になるのは、投げたり抑えられてうつ伏せで受けを取っている際、顔面ががら空きになっていることである。これでは、隣の人の足がその顔や頭にぶつかってしまい、怪我になってしまう。空いている手を顔面の前に置いて、顔や頭を守らなければならない。もし、倒した相手が顔面に手を置いていない場合は、注意してやればいい。

次に、相手に怪我をさせないために、技は腰腹でやることである。
相手に怪我をさせる原因は、所謂、腕力でやることである。体の末端の手で技を使おうとするので、部分的な腕の力の腕力をつかうことになる。この腕力の欠点の一つは、その力を制御できないことである。力を入れたら、いくところまでいってしまい、止めようと思っても止める事ができないのである。だから怪我をさせてしまうのである。

技を掛ける際につかう力は、体の中心の腰腹からの力である。腰腹からの力を、足、そして手に伝えてつかうのである。つまり、技は腰腹でやるということになる。
この腰腹からの力は、腕力とは違って、制御が自由であり、危ないと思って止める事も容易である。これで怪我は相当避けることができるはずである。

更に、腰腹からの力で技がつかえるようになったら、それを息でやるのである。つまり、息で技を掛けるのである。基本的には、イクムスビの息づかいに合わせてやればいい。力を自由に制御できるし、そしてこれに加えて、受けの相手(動き、心)がよく見えるようになり、周りもよく見えるようになるのである。

この状態になると、相手にも周りにも怪我をさせないようにとの気持ちが湧いてくる筈である。これが「愛」といえるだろう。合気道は愛の武道であるということは、このようなことではないかと思う。

しかしながら、合気道は武道であることを自覚しなければならない。己を鍛え、相手も上達するような共栄の稽古をしていかなければならないのである。この上で、怪我をしない、怪我をさせないように稽古するのである。
合気道は厳しい愛の武道なのである。