【第45回】 研究でも稽古でも大切なこと

先日、仕事柄シンポジウムを聴きにいってきた。「第5回ナノテクノロジー総合シンポジウム」(ナノとは10億分の1のこと)というもので、3つのプリナリゼーションがあった。その内のテーマの一つが「研究にはセンス、雰囲気、そしてプラスαが大切」で、講演者はナノテクノロジーの第一人者である藤嶋昭氏(神奈川科学アカデミー)である。氏は、研究で大切なことは、基礎をしっかりする、広い教養、身の回りのことに関心をもつ、センス、ひらめき、常識を超える逆転の発想などを挙げていた。

先端技術の研究で大切なことは、まさしく合気道の稽古でも必要なことである。まず、「基礎をしっかり身につけること」であるが、合気道では合気道の体をつくり、基本技を身につけることである。体ができていない、あるいは基本技ができないのに、派手な技や応用技をやってもできるわけがないし、上達もしない。藤嶋氏は、例としてピラミッド挙げていた。エジプトにピラミッドは沢山あったが、完全な形で今も残っているのは、しっかりした基礎ができていた3つだけだという。

「広い教養」や「身の回りのことに関心をもつ」も大切である。現代のように忙しい世の中にあると、試験や仕事に必要なことは勉強しても、それ以外のものをやる余裕はないようだ。しかし、どの分野でも同じだが、自分が分からず、人間というものがわからず、世界や宇宙が分からなければ、いい仕事はできないはずである。つまり、それらが分かる程度にしか仕事をできないわけだ。合気道でも、日頃から身の回りのことに関心をもち、少しでも広い教養を身につけるべく心がけて、自分の合気道を深めていくべきであろう。合気道でも、その人の「センス」が技や動作、立ち振る舞いに現われるのだから、「センス」を磨くのは大切である。

「ひらめき」も合気道の稽古には大切である。技の稽古のためだけではなく、思想的展開にも大切なのである。朝の目覚め時や散歩中など、ときどき思いがけない「ひらめき」がやってくる。その「ひらめき」を呼ぶためには、「ひらめき」がやってくるための問題意識をもつことであろう。

「常識を超える逆転の発想」も合気道では重要である。現実世界に生きている人はどうしてもものごとを物量やパワーで考え、比較してしまいがちである。合気道はこの現実の世界、顕界を超えた世界のもであるはずなので、物質文明世界と異なる発想をしないと進歩はないだろう。

合気道は、マクロの世界とミクロの世界にある。三界(顕界、幽界、神界)にもナノ(10億分の1)の世界にも関わっている。最先端技術の研究でも合気道の稽古でも、大切なことは共通しているようである。