【第59回】 出会いに感謝

ほとんどの人には、合気道との出会いは偶然といえるのではないだろうか。私の場合も偶然としか言いようがない出会いであった。私が入門した当時(昭和37年)は、合気道はまだ今日のようには普及していなかったので、合気道というものがあるというのも知らなかったし、勿論どんなものなのかも知らなかった。空手でもやろうかなと考えていた私が偶然、合気道という武道があるということを、空手をやっていた友人を訪ねたとき聞き、何かピンときて、その足で大学のクラブ、同好会の稽古場に行き稽古を見せてもらった。そこで大学の近くに本部があることを聞いたので、本部道場を訪ね、稽古をちょっと見せてもらって、すぐ入門したのである。

この偶然の出会いともいえる合気道のお陰で、道場でドイツ人と友達になり、学校卒業後にドイツに行くことになった。そこでドイツの大学に入り、女房とも知り合い、ドイツの企業に勤め、その日本支社に派遣されることになった。ドイツ滞在中は合気道のお陰で、いろいろな人と知り合うことができ、ヨーロッパ人とその社会を勉強することができた。合気道を教えていなければ、下からしかモノをみることが出来ず、一方的な見方しかできなかっただろう。合気道のお陰で、先生という上の立場からもモノが見えたり言えたりしたので、上からも下からも知って中庸で見ることができたと思う。

今は会社を変わったが、やはりドイツ関係の仕事を続けている。女房はドイツに滞在したお陰で、ドイツ児童文学の翻訳をしている。私の書籍や佐々木合気道研究所のホームページの論文は、文章の専門家である彼女のチェックが入るので、間違いが少なく、読みやすくなっているはずだ。これも元は合気道のお陰である。

このホームページの論文も、合気道との出会い、女房との出会い、会社との出会い、合気道の先生や仲間との出会い、それに日々の新聞や雑誌の記事、テレビの報道、読書などとの出会いがあったからこそ出来るのである。もし、このひとつでも出会わなければ、この文章も書けないだろうし、今とは違うことをしていたし、今とは違う自分になっていただろう。勿論、親、兄弟、親戚との出会いもあり、これまで意識に残らないような無数の出会いがあったはずである。

今ある自分は、過去のすべての出会いからつくられている。これまでの出会いに感謝したい。また、これからの出会いも大切にしたい。とりわけ合気道との出会いには心から感謝している。