【第1010回】 本当の旅

これまで多くの旅をしてきた。ドイツ留学に始まり、仕事や合気道関係でほぼ毎年、ヨーロッパを訪れ、ドイツを中心にその周辺国を旅してきた。訪れる国々には友人がいるので、彼らが旅の案内をしてくれた。勿論、彼らの何人かは日本を訪れた。中には我が家に滞在した友人もいた。ドイツ、フィンランド、スエーデン、スイス、スペインからの友人であった。
今年も、フランスとドイツに行き、合気道の講習会の後、ドイツで多くの友人や過っての仕事仲間と再会してきた。
帰国後、旅の達成感はあったが、旅の疲れと旅への情熱の減退を感じるようになった。恐らく来年は、これまでのような旅はしないだろうと思っている。年のせいだろうが一寸寂しい。

そんな事を思っていたところで本を読んでいると或る言葉が目に入った。
それは、フランスの小説家マルセル・プルースト(1871-1922)の有名な名言であるという次の言葉である。
「本当の旅というのは、まだ見ぬ土地を訪れることではなく、新しい目を持ち、新たな視点から見える幾多の宇宙を見ることだ。」(『動物には何が見え、聞こえ、感じられるか』)

この名言はまさしく合気道の世界の旅であると直感したのである。つまり、これまでは目に見える世界、顕界・現界の旅であったので、年と共にその旅の限界がきたということであり、次の世界の旅をしなければならないということだと考えたのである。合気道でも魄の稽古には限界がるから、次の幽界の稽古、気の稽古に入らなければならないとの教えがある。
次の旅は、目に見えない世界、幽界、心の旅である。この次元の旅は時間空間自由で無限である。現在は勿論、過去や未来を旅出来るし、また、顕幽神界の人の世界、仏の世界、神の世界も旅できる。天地界、海中界、動植物界などの旅ができる。例えば、古事記でその旅ができるだろう。
これこそがプルーストがいう「本当の旅」であると思うし、己自身もこれこそが「本当の旅」であると確信した次第である。

ここから分かった事は、実は合気道こそ「本当の旅」をしているのではないかという事である。顕界から幽界、神界への旅を続け、過去現在未来も自在に旅ができる。そしてこの旅には終わりがない。本当の旅は、顕界の旅と違っていつまでも続けられるのである。年を取ったから旅が出来ないなど落胆する必要はない。次の次元の旅が待っているのだから。


参考文献 『動物には何が見え、聞こえ、感じられるか ー 人間には感知できない驚異の現世界』(エドエン著 久保尚子訳 柏書房)