【第548回】  万有万神の真象を武に還元する

合気道の修業に終わりはない。分かった、出來た、悟ったと思っても、必ず次の問題や公案が手ぐすね引いて待っているのである。
はじめの内は合気道の基本の形を覚え、合気道の体をつくらなければならないが、それは指導者が導いてくれるわけだから、この段階では別段問題ないだろう。

しかし、この段階でも、数年掛かるわけだが、問題は、この段階を抜け出すのが難しいことである。形(かた)で相手を倒そうとする、魄の力に頼っての稽古から、次の段階へ中々抜け出せないのである。

次の段階は、技の稽古になる。技の稽古段階では、まず、形と技の違いが分からなければならない。そして技とは何か、技の奥深さや威力、摩訶不思議さを認識し、そして技を会得していくのである。

しかし、合気道の技を会得していくのは容易ではない。その理由は、技は宇宙の営みを形(かたち)にしており、法則性があることである。 従って、技は法則を見つけ、その法則に則ってつかわなければならにことになるからである。
もう一つは、無限広大で、止まることのない宇宙の営みは無限であるから、技も無限で、しかも増大していくことになるからである。
更に、宇宙の営みはなかなか目に見えないので、それを取り入れて技にするのは難しい。

それでは、技を会得していくためにはどうすればいいのか。
その答えも、開祖は残して下さっている。開祖は、「武を修する者は、万有万神の真象を武に還元さすことが必要である。たとえば谷川の渓流を見て、千変万化の体の変化を悟るとか、また、世界の動向、書物をみて無量、無限の技を生み出すことを考えるとかしなければならない」(「合気神髄」 P.106)と言われているのである。

つまり、技(武)を生み出すためには、まず、宇宙・地球・自然の営みをよく観察し、己の体と心に取り込んでいき、それで技を生み出していくのである。
更に、世界の動向を知らなければならないし、本を読むことも大事であると言われているのである。つまり、道場に通って、相対稽古だけをやっているだけでは駄目だということである。「井の中の蛙」では、宇宙の技は生み出せないということである。

世界の動向を知るにも、本を読むにも、そして自然を見ても、その真象(本質)をくみ取らなければならない。そして、そのくみ取った真象を技に還元していくのである。
これが「万有万神の真象を武に還元する」ことであり、技を錬磨する段階の稽古であると考えている。