【第281回】 過去、現在、未来を胎蔵

宇宙は137億年前の過去から始まり、今、現在に至り、そして未来に向かって進んでいる。人類にも過去があり、今、現在があり、そして未来がある。これが、宇宙生命の変化の道筋であり、進化といわれている。

人も誰でも赤ん坊、子供、学生、青年などの過去があり、今という現在を生き、未来に向かって進んでいる。

人は今より以前を過去、今の先を未来と考えている。しかし、よく考えてみると、今と思っている時空は、そう考えた瞬間に過去になっているし、未来と考えていた時空は今の現在になり、そして過去になっていく。だから、人は今だけに生きているのではなく、過去と未来にも生きているといってもよいだろう。

開祖は、宇宙も人類も過去、現在、未来を胎蔵しており、それは自己の体内にあると言われている。

宇宙にも人類にも、過去、現在、未来が同居しているということになると、それは具体的にどのようなことなのか、また、合気道ではどんな意味があり、どのように技の練磨に取り入れていかなければならないのか、考えなければならないだろう。

過去、現在、未来を胎蔵していると思えるものとしては、絵画、書、音楽、詩歌などがあるだろう。よいものは世紀や時代が変わっても、また、国や人種にも関わりなく、高く評価され続ける。マネやモネの絵、モーツアルトの音楽など、過去と現代に評価されたように、未来にも評価されるはずだから、過去、現在、未来を胎蔵しているものと言えるのではないだろうか。

そうだとすると、けっこう多くの人達が過去、現在、未来を胎蔵した仕事をしている。それは、過去、現在、未来を超越して、永遠に生きているといえるだろう。そうだとすれば、過去、現在、未来を胎蔵し、永遠に生きるようにしたいものだし、合気道の稽古もそうありたいものだ。

合気道の技は宇宙の営みを形にしたものであり、宇宙のできる以前からあったと言われるほど、古い過去の歴史がある。また、合気道は宇宙天国を建設するための宇宙生成化育のお手伝いをするという、未来に向けての使命と目的をもつものでもあり、過去と現在と未来が繋がっているといえるだろう。

合気道に過去、現在、未来を胎蔵されているのであれば、自己の技にも過去、現在、未来が胎蔵されるような稽古をしなければならないだろう。

技の練磨をして精進する合気道での技は、今を一所懸命にやるわけだが、まず、その今に過去が胎蔵されていなければならない。これまで指導者に教わったこと、開祖の教え、そして開祖が修行されたであろう柔術、剣術、槍術などなどの要素が含まれていなければならない。つまり、過去のそれらの要素が土台になっていなければならない。

過去が土台になっていないもの、過去の教えを引き継いでいないもの、過去の遺産の入っていない我流の技遣いは、過去が欠けているだけでなく、現在もそして未来にも繋がらないはずである。過去を大事にしなければ、先に繋がらない。

次に、未来に繋がり、未来を胎蔵していなければならない。例えば、知育・気育・徳育・体育・常識の涵養の完成、真善美の探求、宇宙との一体化等などであろう。それは各自異なるかも知れないが、いずれにしても、胎蔵する未来のものは、宇宙が目指し、宇宙生成化育に則ったものでなければならないはずである。

未来を胎蔵していない技は、相手が納得してくれないし、自分も納得できないはずである。開祖の合気の技が万人に受け入れられたのは、過去を胎蔵し、そして未来を胎蔵していたからだと考える。

このようなことが、合気道は過去、現在、未来を胎蔵しており、過去、現在、未来は自己の体内にあるということではないだろうか。

合気道の稽古は、過去も現在も未来も一体化して胎蔵し、時間を超越したものになるようにしなければならないだろう。

また、合気道の稽古で、過去も現在も未来も一体化した、時間を超越した稽古ができれば、生き方も時間を超越したものに変えることができるかも知れない。