【第112回】 文化と合気道

民族は文化を持っている。文化のない民族は滅びるとされる。文化は民族のいのちといえる。従って、人間も文化を持ってはじめて人間といわれることになろう。今、日本では多くの問題が起こっているが、日本民族のいのちである日本の文化を失ったり、忘れたり、粗末にしていることから来ているのではないだろうか。

文化は継承されなければならない。過去の文化を引き継ぎ、それを次の世代に継承するのは、人の務めであると考える。我々の世代で途切れてしまえば、先代までの文化は永遠に消滅することになって、次世代に引き渡すことが出来ないわけである。

「文化」とは人間が長年にわたって形成してきた慣習や振舞いの体系ということだが、この言葉はまた、人間が生み出した高い達成度を持つものを指しているとも言う。合気道もまた、植芝盛平開祖により生み出された、高い達成度をもった文化である。合気道は一つの文化であり、人類の遺産でもある。この合気道文化を、何としても後世に伝えなければならない。

合気道は、ただの武術ではない。古い日本文化の代表とも言える古事記や神道で説かれる宇宙生成に則った哲学・思想を、稽古を通して実践し、また物質世界の上に精神世界が来るようにとの希望を持ち、争いのない世界を目指すものである。これまでの日本文化を継承するだけでなく、これから世界が必要とする新しい文化を創造し、その為の実践的修行をしているのが合気道文化であるから、日本文化であり、同時に世界文化であると言えよう。

合気道を修行するものは、この開祖がつくられた合気道文化を継承し、高度化しなければならない。合気道文化の理解の仕方や修行のやり方は各自違うだろうが、合気道を一つの文化として大切に修行していかなければならない。文化とは、人間に生きる活力と喜びを与えるものである。だから、次の世代に受け継ぐことができるのである。破壊的なもの、宇宙の意思に反するものであれば、文化とはならず、排除されてしまって継承されることはないだろう。

日本人の文化の原点、合気道文化の原点に立ち返って稽古をし、次の世代に引き継いでいきたいものである。

参考文献 「神道<はだ>で知る」葉室頼昭 (春秋社)