【第942回】 水火で体と技をつかう

合気道の技をつかうためには手がしっかりしていなければならない。手先まで折れ曲がらず、歪まない手でなければならない。しかしこのしっかりした強靭な手にするのは容易ではない。自分自身も過っては、強靭な手にしなければならないとは思っていてもどうしてもできなかったが、まわりの稽古人の手を見ても手先が弛んで真っすぐになっていないし、また、注意しても治らないからである。
これは以前にも書いている事であるから、誰もが承知しているはずである。だが、手先までも歪まない強靭な手をどうすればつくれるのかが分からないのである。イクムスビの息づかいでその手をつくればいいとは書いたがそれだけでは難しいようだ。

そこで、何故、イクムスビの息づかいで手先を十分強靭にできないのかを考えてみた。私自身がやれば上手くいくのだが、他の人がやると上手くいかないのである。イクムスビで私の手は手先まで強靱なるが、稽古仲間の手は十分伸びず、拡がらずに縮んだままなのである。
更によく観察して見るとその理由が見えて来た。稽古仲間はイクムスビしか知らないので、イクムスビの息づかいを誠心誠意極限までやらないと効果が現われないのだが、そこまで力いっぱいやっていないようなのである。勿論、これは容易ではないことは分かる。
私の場合はイクムスビの先のことを知っており、その中でのイクムスビなので効果が違うのである。
イクムスビの先のモノとは何かというと、それは「水火すいか」である。水火はこれまでも研究してきたが、宇宙のイキと考えればいいだろう。大先生は水火を、「一挙一動ことごとく水火の仕組みである。いまや全大宇宙は水火の凝結せるものである。みな水火の動きで生成化々大金剛力をいただいて水火の仕組みとなっている」と教えておられるのである。

「水火」を簡単に言えば、引くイキと吐くイキと考える。しかもこのイキは気のイキであり、一般的な口からの空気の息ではない。口以外でも人はイキをしている。腹中と胸中と全身でである。

この水が火に変わり気が拡がり、そして集結するわけだが、一般的な水は腹中、上級の水は胸、達人の水は全身であると考える。
しかし腹中の水では十分な気が生まれず、手先が十分伸び、拡がらないのである。イクムスビはこれに属すだろう。これが一般的なのである。
手先が伸び、拡がるためには胸中でイキをつかわなければならないのである。言霊“え”である。
この胸中のイキを更に全身に拡げると気が全身に拡散し手先だけでなく、全身に気が満ち、強靭な体になると考える。名人、達人は皮膚で呼吸すると聞いた事があるが、これと関係があるだろう。

名人、達人の全身の水火のイキづかいで体と技をつかえばいいだろうが、すぐには難しいだろうから、腹、胸、そして全身の水火のイキづかいで、水火の技をつかっていけばいいだろう。イキだけでなく技も水火で構成されているのである。宇宙に拡がり、地に集まり、また拡がり、縮まる・・・と技をつかうのである。