【第879回】 腹の力を手先に落とす その2

今回は「第876回 腹の力を手先に落とす」の続きである。技を掛ける際は、相手との接点にある己の手先に腹の力、つまり体重が常に掛かっている状態にしなければならないと書いた。しかし、これは至難の技である。大体は動きのどこかで相手がこちらの手に上から力を加えてくる体勢になるものである。片手取り呼吸法でやってみるといい。大体、初めに掴ませるところで相手の体重がのってくる。相手の手が上で、己の手が下になっている。これでは手を引いたり、下ろしたりとばたばたしてしまい、腹の力が手先に落ちず技にならない。
手先に己の腹の力が落ちると腹と手先が結び、腹の力が手先に流れるので強力な力が出るのである。また、手先に腹の力が落ちるためには、己の手先が相手の接点を上から抑えなければならない。この上からの押えが無くなると技が切れることになる。

この接点の押えが切れないための方法がわかった。それは前回「第878回 丸く円を描いて技を生み出す」「第877回 手の平を円の軌跡でつかう」の中にある。手の平を円の軌跡で丸くつかえばいいのである。円をつくり、この円の中に技を収めるということである。
これで片手取り呼吸法をやれば己の体重が相手に伝わり、切れることなく力が生まれ、相手と一体化するのである。
特に、最初のところがポイントである。相手がこちらの手を掴むわけだが、ここでは相手の手が上で、こちらの手は下である。これでは力が出ない。己の手が相手の手の上にならなければならない。それではどうすればいいかというと、掴ませた手を親指を支点として手の平を丸く返すのである。返すのは内と外の二種類ある。手の平を己の顔を写すか、相手の顔を写すように返すのである。手鏡である。そうすると己の手の平の小指が相手の手の平に触れ、己の腹の力(体重)が相手の手、そして体に掛かるのである。これで己の手が相手の手の上にのることになるのである。
この円を、更に手の平を反転々々しながら丸い円をつくっていけば片手取り呼吸法の技になる。勿論、他の技(形)、いやすべての技で、手は相手の上にして己の体重をつかうようにしなければならないはずである。例えば、二教裏は己の手に己の体重が掛かるから大きな力が出て効くことになるわけである。

しかし、手の平を円の軌跡でつかうのも、手の平を丸く円を描くのもそう簡単ではない。手首は柔軟で強靭でなければならないし、腰腹も柔軟でなければならない。一つ一つの技や動きを身につけていかなければならない。時間が掛かる。着実に一歩一歩歩み続けるしかない。