【第937回】 基本技を繰り返して稽古するとは

合気道は基本の技を繰り返し練って精進していく。しかし、只基本技を繰り返して稽古をすれば上達するかというと、上達するが上達しないという結論に達した。この意味は、初めのうちは上達する、しかしある処から上達しなくなるということである。そのために多くの古い稽古人が続かないのだと見ている。

そこでとりわけ古参の稽古人が上達する、上達し続けるためにはどうすればいいのかを考察してみたいと思う。
先ず、基本技を繰り返し練習しなければ上達はないことは確かであることを再確認することである。基本技を繰り返し稽古することは、誰もが修業の最後までやり通さなければならないということである。段が七段であろうが八段であろうが関係なく繰り返し稽古を続ける事である。

次に、繰り返し稽古する“基本技”を再認識することである。基本技とは何かをもう一度考えてみるのである。最後まで何度も繰り返す技であるわけだからその意味と価値を知れば更に打ち込む事ができるはずだからである。
それでは合気道の基本の技とはどういうものなのかである。
宇宙の営みを形にし、宇宙の法則に則った形が合気道の技であるが、その宇宙の営みと宇宙の法則が凝縮した技が合気道の基本技であると考えている。故に、この合気道の基本技を身につけることによって宇宙(気、魂など)が身に着き、宇宙と合し、一体化するわけである。この宇宙との一体化が合気道の修業の目的なのである。因みにこれは小乗の合気道の目標である。大先生はもう一つの目標を地上楽園の建設、宇内の完成へのお手伝いであるといわれている。言うなれば、大乗の目標である。

もう一つのこの基本技を“繰り返す”ということである。繰り返して稽古することによって上手くなる事は誰にも分かっているのでやっているわけだが、何故、基本技を繰り返しやらなければならないかを考えたらいいだろう。私は60年以上稽古、つまり技を繰り返し稽古してきたわけだが、最近、ようやく何故、繰り返すのか、繰り返さなければならないのかが分かったのである。

一般的に繰り返す稽古は、出来なかった事や上手くいかなかった技を復習することであろう。繰り返すことによって上達するわけであり、出来ないまま不味いままにしておけばそれまでである。しかしこの次元の繰り返しの稽古をしていてもそれほどの上達はない。次の次元の繰り返しの稽古が必要になる。

基本技が上手くつかえるようになるには、多くの必要要件・条件を満たさなければならない。この要件が欠ければ合気の技にならないという事である。何故ならば、その要件とは宇宙の法則であるからである。合気道の技は宇宙の法則に逆らっては駄目だからである。
これまでその要件を見つけ、身に着けようとしてきたわけである。それは私の『合気道上達の秘訣』や『合気道の思想と技』『合気道の体をつくる』に記してきた通りである。
例えば、足は規則的に陰陽でつかう。手も陰陽でつかう。そして手と足はシンクロして陰陽でつかうなどである。先ず、足が右左右・・・と陰陽でつかうとする。正面打ち入身投げで納得し、小手返しで確認するのがいいだろう。これを繰り返して身に着けなければならない。足に対して手の陰陽づかいは容易ではない。どうしても手は本能的に陽陽でつかってしまうからである。この本能から脱却し陰陽でつかうためにも繰り返しての稽古が必要になる。更に、手に気を取られてしまうと、以前に身に着けた足の陰陽が乱れてしまうことになる。再度足の陰陽を思い出して、手の陰陽とともに技をつかう稽古をするということで、これが技の繰り返しの稽古ということになる。等

例はこれまで記してきたように要件・条件は多数、否、無限にあるようだ。それを見つけ、身につけるために繰り返し基本技を稽古することになる。技が上手く生まれるようにするためである。技が上手く生まれたのか、出来たのかの判断は、その技の要件を満たしたかどうかにあると考える。例えば、正面打ち一教の基本技に要件が10あるとしたら、10の要件が出来なければならない。いくら10の内9つが出来ていても技にならないのである。
最初の1つの要件を身に着け、2つ、3つ・・・10と身につけるためには、例えば、正面打ち一教を何度も何度も繰り返して稽古しなければならないことになるわけである。

合気道の基本技はそれほど多いわけではないが、一つの基本技にはそのために要件が多数ある。それは稽古人のレベルに依るだろう。10の要件のレベルを目指す人、100のレベルの人があるだろう。しかし、宇宙の法則、つまり技の要件は恐らく無限のレベルであろう。故に、修業に終わりがないということになるはずである。大先生が最晩年までもまだまだ修行じゃと云われていたのはここにもあるように拝察する。