【第736回】 頭をつかう

前回の第735回「首をつくる」に引き続いて、首の上にある頭について研究してみたいと思う。
そこでは、首は、頭と胴体を繋ぐ部分であり、首は胸鎖乳突筋と僧帽筋で支えられていると書いた。首は頭と胴体を胸鎖乳突筋と僧帽筋で支え、そして働かせるということになる。顎を引き、胸を張って体をつかえば、胸鎖乳突筋と僧帽筋の働きで、頭は胴体と繋がり、手も胴体と繋がる。

これまで気にしていなかったが、頭をつかうことは予想以上に重要なのである。頭をつかうといっても、日常生活や勉強などで、頭で考えたり、問題解決をするなどの為につかうということではない。物理的、実践的につかうことである。
それでは合気道の技・体づかいで、頭を物理的にどのようにつかうのかを見ることにする。

頭が首と、そして胴体としっかり繋がると、頭から腰腹を通る天地の軸ができる。この軸を前後左右陰陽に返すのは頭である。一軸にある頭で体を移動するのである。一軸から他方の一軸に体を移動できるのは、腰腹に結んだ足と首と結んだ頭である。スケートの体重移動をイメージすればいいだろう。腰腹と足も重要だが、頭も重要な事が分かるだろう。

次に、首と繋がっている胴体と手は、僧帽筋で支えられているわけだが、この張りを壊さずに、手先に体重を掛けるのが頭なのである。手に力を入れて、力んで相手を崩そうとしても、大きな力は出ないし、相手の力が反発し、己自身の態勢を不安定にしてしまう。例えば、正面打ち一教で打ってくる相手の手を制するのに、己の手で受けても上手くいかないが、己の頭をつかうと上手くいくものである。
胸鎖乳突筋と僧帽筋と繋がっている首の上にある頭の軸移動により、手先に頭の重さ、引いては体の重さが圧し掛かってくるのである。頭は相当に重いようである。実際、頭の重さは体重の約10%といわれるから、体重60kgなら6kgとそれほど重くはないが、相手がこれより相当重く感ずるのは、この6kg以外に加わった重さを感じるからであろう。例えば、腰腹等他の部位からの重さ、息や気力、勢いや惰性等。

しかし、そのためには頭が手より先に進まなければならない。頭が先に進み、その後に手が出るようにするのである。外から見れば、頭で技を掛けているように見えるだろう。下半身では、腰腹が先に進み、その後に足が進むということと同じである。因みに、技をつかう際の手足の動く順序は、頭を入れると、腰腹⇒足⇒頭⇒手となる。

こんなところが、頭をつかうということになるだろう。