【第344回】 筋肉、気持ち、息 ― 魄から魂へ

相対稽古で技を有効にかけるためには、いろいろな必要事項がある。稽古は、その無限とも思われる必要事項を、ひとつひとつ身につけていくことでもある。しかも、その必要事項には、身につけていく順序があるようである。

例えば、何といっても先ずは、しっかりした体をつくらなければならない。主に、受けで転がったり、関節を伸ばしてもらったりして、骨格や筋肉に刺激を受けながら、全体が調和して動けるような体をつくっていくことである。

体を目いっぱいに使い、一生懸命に稽古すると、ハーハーゼーゼー息切れしたり、心臓もドキドキして、それによって肺や心臓などの内臓も鍛えられることになる。

はじめは技などまともにかけられないだろう。それで、相手と対等にやろうとすれば力いっぱいやるしかないのだから、必然的に力いっぱいやることになる。それで腕力がつき、筋肉もついてくることになる。

これは程度の差があっても誰でもやっていることで、いわゆる基本の体作りということになろう。

ここまでは、稽古を一生懸命にやれば、誰でも身につけることができることである。だが、どれだけ身につくかは才能もあるが、どれだけ一生懸命にやったかにもよるので、人によって差が出てくることになる。

この基本の体ができたら、今度はこの体をどう使っていくかを考えなければならない。そうしないと、基本の体作りの段階でできた体力で技をかければよい、と考えてしまうからである。

例えば、基本の体作りで太く丸い腕ができて、腕力がつくと、どうしてもその腕力に頼って、相手を倒したり抑えたりしがちになる。もちろん、力は強ければ強いほどよいはずだから、どんどんつけるべきである。だが、それをそのまま使ってしまうと、魄の稽古になってしまい、合気道の稽古ではなくなってしまう。

腕力のついた体がある程度できたら、今度はそのつかい方である「用」を考えなければならない。体から用である。

例えば、はじめに体、とりわけ筋肉がものをいう稽古法に、諸手取り呼吸法がある。体を用にして使っていくわけだが、それには次のような段階があると考える。

  1. まず、最初は誰でも腕の筋肉に頼って、腕の力で相手を投げようとするものだ。この手先から肩までの腕の力をつかってやる期間は、けっこう長く続くようで、人によっては最後までやってしまうこともある。
  2. 次に、肩を貫くことに気づくと、手先と自分の腰が結びつき、腰の力で手を動かすようになる。これは腕力よりも強力で、異質の力が出てくる。
    この力は、筋肉からの力である。手先、腕、上腕、肩、菱形筋、殿筋などがつながって、腰からの力を手先に伝える。異なる筋肉をつなげるには、関節を十字につかわなければならない。十字が、異なる筋肉をつなげるキーとなる。十字に使えば、手は螺旋に動くことになり、技となる。
    しかし、これもまだ、筋肉に頼った魄が優先する力である。
  3. 手先と腰を結び、筋肉をつなげて、螺旋で使えるようになれば、今度は、この筋肉に裏方にまわって働いてもらうようにすることである。
    相手に持たせた手の接点に気持ちを入れ、そして、そこに息を入れるのである。そうすると、筋肉どうしが結びつき、手先から腰までの筋肉がつながってくる。このつながったところで、気持ちに沿った息で体をつかうのである。この力は前出しの筋肉、つまり魄を表にしたものと違い、魄を裏にし、魂を表にするものといえるだろう。
しかし、この息づかいは日常のものとは違っているので、研究する必要がある。次回は、この息づかい「生産び」を研究したいと思う。