【第28回】 腰を落とす

武道ではよく腰を落とせという。武道だけではなく、日本の踊りなどの芸能でも腰を落とせという。腰を落とすとはどういうことか、あまり考えなかったし、最近までただ漠然と腰を下に落とすことだろうと思っていた。

腰を落とすとは骨盤を倒すことであるようだ。骨盤を倒した状態とは、椅子や壁に背もたれをし、少し後ろに反った状態から背中を伸ばした状態である。

しかし、この腰を落とすということが非常に大事なことであり、これが出来ないと安定した動きや、体勢を保つくともできないし、技も上手く掛からない。 従って、腰を落とすとは、骨盤を後ろに倒した姿勢を取る事である。近代日本では、西洋人のように骨盤を起こし、各関節を伸ばし、直立に立ち、歩いたりするが、この骨盤を起こした動きは日本人にとってまだ経験が浅く、未文化なのである。昔の日本人の姿を絵や写真で見ると、腰が落ちていて、安定し、重量感がある。

骨盤を倒して腰を落としたときの効用は、重心が落ちて、安定性があり、手足を動かしやすく、手足が重くなり、また、足からの力が手に伝わりやすくなる。人ごみの中を歩くとき、腰を落として歩くとあまり人にぶつけられないで歩ける。また、骨盤を倒して、しっかりした呼吸をすればリラックスし、集中力が高まるといわれる。昔から、泥棒に入られた家のそばで泥棒がした大便があれば、その泥棒は捕まらないと言われている。つまり、その泥棒は仕事の前に骨盤を倒して、リラックスし、集中力を高めたのである。

また、骨盤が倒れると、胸と腰が一体化し、体全体が一体化する。そのことによって、動作をする際、予備動作をしないでも切れ目のない動作ができる。 骨盤を落としてナンバで歩くと、所謂、忍者歩きや横歩きができるが、骨盤を立てている西洋人には忍者歩きはできないだろう。 骨盤を意識して倒し、腰を落として稽古をしよう。