【第141回】 手も十字で

合気道は宇宙の運行を凝縮した技を稽古して、宇宙と一体化しようとするものである。宇宙はアからウの縦とエとイの横との十字に創生されたといわれているが、天之浮橋も十字であるように、宇宙すべての成り立ちは十字のようである。

開祖が「十字道」とも言われるように、合気道もまた、十字にある天之浮橋に立って、技は十字に掛けなければならないとされる。

小宇宙と言われる人の体も十字に機能するようにできているようである。力を出す場合は下肢も十字(直角)で遣うが(写真上)、最も典型的なところは手である。正確に言うならば、手から腕、上腕(二の腕)の部位の上肢である。

この上肢を真っすぐ伸ばし、手のひら(掌)を地面に対して垂直にすると、この状態から、先ず手首を支点として手は横に水平に動き、次に肘を支点として腕は縦の上下に動き、上腕は肩を支点として横に水平に動きやすくできている。つまり手、腕、上腕は─(横)、│(縦)、─(横)と十字になって動くようにできているのである。

合気道で技を掛けるにあたっては、相手の手、腕、上腕をこの動きやすい方向にもっていっても、相手は崩れず、技は効かないことになる。技を効かせるためには、これらの縦横の動きに十字になる方向に掛けなければならないことになる。従って、技を掛けるときに遣う手、上肢は動きやすい縦か横と反対になる横縦に遣わなければならないことになる。例えば、本来なら横に動き易い手は、手首を支点にして垂直に動くようにしなければならない。確かに正面打ち一教で打ってきた手腕を制するのには、手が手首を支点に垂直に動かないと難しい。片手取り四方投げを掛けるときも、手、腕、上腕は通常の動きと十字になるよう、縦、横、縦に遣うと上手くいきやすい。

しかし、もともと縦か横に動き易いものをその逆に遣うのは難しい。縦と横とは本来異質のものであり、繋がりがなく、動きが切れてしまい、技にならないだろう。だが、縦横十字の動きを一つにするものがある。それは螺旋である。この螺旋の動きによって手の横の動きを縦にし、腕の縦の動きを横に遣い、上腕の横の動きを縦に遣うことができるのである。その上、肩を貫けば、胸鎖関節を支点として縦に動き易い上肢を横に遣えるようになって、更に大きな力がでるようになる。

このことが分かりやすく身につけやすいのが、剣の素振りである。日本の剣は両手で遣うが、両手で遣う意味がここにあると考える。