【第650回】  天地の引力をつかう

「第642回 引力の錬磨」に続いて、更なる引力の鍛練を研究してみる。
前回は、相手をくっつけてしまう引力の鍛練について書いたが、まだまだ人間対象のもので、あまり大きな力はでないだろうし、また、力の限界もあるだろう。
それでは更なる引力と云う力を出すためにはどうするのかを考えなければならないだろう。
まず、合気道の力とは引力でもあることを確認しておかなければならない。それは「奇荒和幸霊の四つの霊によって八つの力が出てきます。八つの引力がますます濃厚に生み出され、全宇宙の生命を明示しているのです。」(武産合気P.48)にあるように、引力は力なのである。従って、合気道の力には引力が働いており、相手にくっついたり、相手を自由に導くことができるのである。

更なる引力とは、人間の引力ではなく、天地の引力である。
この天地の引力について、「我々の上には神があると思わねばならない。なぜならば長い間仕組んで出来上がった天や地、そこにある引力−これは天の気がずっと下がってくる−天地の妙精力、つまり引力と引力との交流によって世界が収められる。」(合気神髄 P.58)と大先生は言われている。
この天地の妙精力である引力を使わせて頂くのである。天と地で交流している引力に身をゆだね、更なる引力を養成するのである。

具体的な養成法を諸手呼吸法でやってみる。
これまではイクムスビの呼吸のイ、クで相手を引力でくっつけ、そして導いていったわけだが、今度は、己の腕を相手に諸手で掴ませたまま、【1】まず天の気を、息を吐きながら下腹まで下げ、腹をまるく締める。天と腹つながり、腹が天を引っ張る引力が発生する。腹は地とも結び、地とも引力で結ぶ【2】締めた腹を緩めると、腹から気が背中を通って天に上がり、腹と天が結ぶと同時に腹から地に気(エネルギー)が下りる。腹から気が上下に交流し、引力が発生する。この時点で、こちらの腕を抑えている相手は、自然に浮き上がってくる。【3】この腹から縦に上がる気(引力)に合わせて、息を縦そして横に吸い、押さえられている手を操作して相手を倒す。
とりわけ、【2】の腹を緩めた時、こちらは何もしないのに、相手が浮いてくるのは、天と地の引力の交流のなせる業と実感できる。

人の小さな力だけに頼らずに、天地の力(引力)をお借りした方が大きな仕事ができると実感できる。
技をつかう際も、ただ手足を振りまわすのではなく、天と地の引力の交流によって技をつかうのである。人間同士の切った張ったの小さな力や動きではなく、宇宙と一緒に仕事をするわけである。これこそが合気道が求めている武産の引力の鍛練であり、相手の全貌を吸収してしまう引力の練磨であると考える。

しかし、この天地の引力をつかうためには呼吸、つまり天地の呼吸が必要になり、天地の交流が必要になる。次回は、天地の交流について研究してみることにする。