【第351回】 魄から魂への稽古

人の体には、大小がある。力にも、強弱がある。スポーツなどの魄の世界では、まだ基本的には体の大きいものが小さいものを、力の強いものが弱いものを制する、といってよいだろう。

人間社会もまだ魄の社会であり、物質科学の社会であるといえる。力やものに重点を置くことによって、人間社会で多くの混乱や問題が起きている。その奪い合いによって争いが絶えないことは、毎日のニュースを見ればわかる。

合気道は、この世からこの問題を解決し、争いをなくし、世界を変えようとしているのである。合気道がこれだけ世界に普及し、フランスで先代道主が日本人最初のスポーツ功労賞を貰ったり、ローマ法王に謁見したり、ブラジル・サンパウロ市名誉市民章を貰ったのは、合気道には世界から争いをなくす理合があるからだと考える。

もちろん経済も大事であるし、ものも大事である。また、体も大事である。魄も大事である。しかし、これだけを大事にしていると、前述のように他との争いが起こるし、自分の中でも、体(魄)と表裏一体にある心(魂)が反乱を起こし、自身が不安定になる。

合気道では魂(心)を魄(体)の表に出し、魂で魄を導かなければならないと教えられている。もちろん、魄は魂を入れる器であるから、魄も大事であるし、鍛えられなければならない。

それでは、心で体を導くとはどういうことなのか、また、どうすればよいのか、を考えてみたいと思う。

合気道は、技の練磨で精進していくので、

相対稽古をしていれば、こちらにも心と体があるように、相手にもそれがあるということがわかってくる。こちらが体、つまり魄主導でやれば、相手も必ず体、つまり魄で対抗してくる。こちらが心で自分の体を主導し、相手を心で導くようにすると、相手もそれに従って動いてくれるようになるものだ。つまり、こちらの心で、相手の心を導くのである。この心の基本は、愛と感謝である。愛とは相手を想うことである。

なお、心が体を導くためには、体は宇宙の条理に則って使われなければならない。十字、陰陽合致、等などである。心が働くためには、体が宇宙の法則に則って無意識のうちに動くように、鍛練しなければならないだろう。

また、心に働いてもらうためには、呼吸も大事である。呼吸も天地の呼吸に合うように、修練しなければならない。

新聞記事やテレビ番組、書籍のタイトルやテーマなどを注意していると、その年の人の関心事がわかりおもしろい。
清水寺では、毎年、その年のキーワードを漢字一字で発表している。一昨年は「絆」、昨年は「金」であった。 私もここ数年、その年のキーワードを選んでいる。
2011年のキーワードは「愛」、2012年は「宇宙」であった。そして、今年である2013年のキーワードは、「心」だろうと思う。

今年は「心」が、合気道の修行者には重要な稽古のテーマになるだろうし、社会でも「もの」から「心」へと変わっていくきっかけになる年ではないかと考えている。
結局、私が見つけている各年のキーワードは、合気道が修行の対象としているものと合致しているわけだから、合気道は世間を先取りしているともいえるのだろう。