佐々木合気道研究所

【第921回】 五体のひびきの槍

これまで技をつかうに際し、相手との最初の手による接触を重視してきたが、これがなかなか難しいと書いてきた。
今回は、これまで何故上手くいかなかったのか、どこに上手くいかない原因があるのか、そしてどうすればこの問題を解決できるのかを研究してみたいと思う。

まず、相手との接触が上手くいかない原因である。それは己の手と相手の手の接触が難しい、どうすればいいのかということの前に、相手との手と手の接触が大事なことがよく分かっていなかったことである。これがあやふやではいい接触は出来ないのである。何故、相手との最初の接触が大事かと云うと、その理由は、

• 相手との一体化：合気道の技の錬磨の目標は宇宙との一体化であるが、まずは相対の稽古相手と一体化できなければ、宇宙とも一体化などできない。先ずは相手と一体化し、相手と一つにならなければならない事になる。１＋１＝１である。二人が一人になり、相手は己の一部・分身になるわけだから自由に動けるのである。 相手と接する手に十分な力がなかったことである：
  
• これまでの手のつかい方は、言うなれば、魄の次元の肉体的な手のつかい方をしていたという事である。これでは相手の強い力に制されてしまうのは当然である。それに気づかせてくれたのは大先生の次の教えである。
  「技は、すべて宇宙の法則に合していなければならないが、宇宙の法則に合していない技は、すべて身を滅ぼすのである。武産の武の結びの第一歩はひびきである。五体のひびきの槍を阿吽の力によって、宇宙に拡げるのである。五体のひびきの形に表れるのが『産（むすび）』である。すべての元素である。元素は武の形を表し、千変万化の発兆の主でもある。」

　 この大先生の教えから、相手と接する手をどのようにすればいいのか、どのようにつかわなければならないのかが分かってくる。

• 先ず、手は五体のひびきで槍のようにつかわなければならないということである。手は五体のひびきである気でつかわなければならないということと、槍のようにつかうということである。ひびきとは気であろう。故に、気が出ないうちは手を槍のようにつかうのは難しい。
  槍は突くわけだから、相手の中心（正中線上）を突く事になる。片手取り呼吸法は此れをしないと相手と一体化できない事が分かりやすい。足⇒足⇒手（槍の手）と手をつかうのである。相手の前足に掛かっていた重心は後ろ足に移動する。後ろ足に体重が移ると相手は体制を前足に移動しようとするからその拍子に合わせれば一緒に動ける事になり、一体化した技になるわけである。
• 次に阿吽の力である。息づかいからの力をつかえという事である。阿（ア）―と息を宇宙に拡げ、そして吽（ウン）―と萎める緩急の息づかいである。宇宙の営みと合し、宇宙と一体化する息づかいということである。これまでの人間相手ではなく、宇宙を対象とし、宇宙と共にする息づかいであり、技づかいとなるのである。
• そして五体のひびきの形に表れるのが「産（むすび）」である。相手と手で接すると相手とくっつき、つかまなくとも接するだけで相手を自由に動かす事ができるようになる。これが産（むすび）と実感する。
  合気の技を掛ける際の相手と接する方法は、片手取りや諸手取りなど　で相手がこちらの手首を掴むこと、正面打ち、横面打ち等で相手が打ってくる手をこちらの手で制するが主なものであるが、この五体のひびきの槍（足⇒足⇒手・槍）でやればいい。相手と産び一体化するのである。
• 最後の「産（むすび）」である。すべての元素である。元素は武の形を表し、千変万化の発兆の主でもある。
  「産（むすび）」は技の基であり、元素であるという事である。むすびを無くしたり、切ったりすれば技にならないという事である。むすびを切らずに技を収めればそれが真の技＝武の形であり、また、千変万化するということである。しかし、これは容易ではないが出来ない事はないようだ。

これで相手と上手く接触でき、手が上手く働いてくれるようになると期待しているところである。