【第912回】 予想がつかない

私が合気道を始めた頃は、まだ合気道が世間で知られていなかった。偶然、本部道場に入門したが、どんなものなのか分からずに入門した。分かっていた事は、合気道は武道であることである。それまではハイジャンプや軟式テニスなどスポーツをやっていたが、スポーツでは限界があるし、勝ち負けが重要なのでスポーツとは違う武道にしたということである。また、合気道という武道名から、気合で相手を吹っ飛ばす事も出来るようになるのではないかと期待した。敵をチョチョイがチョイと投げたり吹っ飛ばすのである。勿論、稽古は厳しいだろうとは覚悟していた。

稽古を始めるとそれまでやってきたスポーツの稽古と本質的にはほとんど変わらないことがわかった。繰り返して稽古をし、技を会得し、そしてそれをレベルアップしていくということである。
そしてどこまでレベルアップするのか、つまり上手くなれるかはある程度予想できる、計算できるのである。そのレベルアップの計算式は次の通りである。 レベル=(才能+努力+運)x 時間 
運はこちらでは自由にならず、あちら任せなので当てにならないし、才能は決まっていてほぼ定量だから、レベルアップするには努力するほかないという事になる。
この計算で何年後にはどのくらいのレベルになるかの予想がつくわけである。また、己だけでなく、他人の予想もできるし、お互いにやっているはずである。何年やればこのぐらいのレベルになると分かれば、稽古を続ける意欲はなくなるはずである。

しかし、合気道での修業結果はこの計算式で予想されないのである。言うなれば、予想不可能なのである。それは何故かと云うと、合気道では自分(才能と努力)の他に、他者の助け・協力が加わるからである。この他者を大先生は神と言っておられ、神々がレベルアップに協力してくれると次のように教えておられるのである。
「この合気だけは小さい神さまじゃない。世界中の天津、国津の八百万の神々に、ことごとくご協力いただいております。顕幽神三界も、また我々の稽古の腹中に胎蔵しております。自分の心の立て直しができて、和合の精神ができたならば、みな顕幽神三界に和合、ことごとく八百万の神、こぞってきたって協力するはずになっております。」
神様が手助けしてくれるので、予測が不可能ということになるわけである。顕幽神三界や我々の体にある八百万の神々が協力してくれるが、何時、何をどれだけ手伝ってくれるかが分からないからである。急に神業がつかえるようになるかも知れないし、超人的な力が出るようになるかも知れないし、宇宙と一体化するかもしれない。
大先生は神々がレベルアップに協力してくれると保証されているわけだから、必ず神々の協力はあるし、レベルアップもある。只、何時、どれだけ、どのようには不明で予測不可能なのである。だから合気道は面白く、止められないのである。