【第904回】 魄が下になり、魂が上になるとは(その3)

魄が下になり、魂が上になるように技と体をつかうように稽古をしてきた。特に、正面打ち一教と片手取り呼吸法で稽古をし、これをつかえるようにし、また確認した。そして他の技でも大分つかえるようになったので以前から難題であった胸取りで試してみたところ上手く出来て自分でも驚いてしまった。魄が下になり、魂が上になるように技と体をつかうようになったから胸取りができるようになったわけだが、よく観察してみると、魄が下になるにはもう一つ大事な意味があることがわかり、それを無意識のうちにやっていることで胸取りが出来たということのようなのである。

胸取りで相手が胸を掴んでくると、相手の掴んだ手とこちらの胸で接するわけだが、ここが接点であり支点となる。この接点・支点を動かしては駄目なのである。ここは魄である。この接点・支点の魄を動かすという事は魄が下ではなく上になることなのである。
しかし、この接点・支点である箇所から力を相手に向けて出さなければ技にならない。だが、そこを動かしてはならないというジレウマに陥るわけである。
動かさないで動くようにすればいい。魄を自ら動かすのではなく、他に動かしてもらうのである。動かす他とは、接点・支点と対象側である。胸取りの場合は、掴まれた胸の裏側の背、肩甲骨、腰などである。この胸の裏側から力を掴まれた胸に力を送り、胸から力が出るようにするのである。こうすれば魄は下になったままであるから技になるのである。
因みに、この場合、掴まれた胸が体(たい)で支点であり、胸の裏側の背、肩甲骨、腰が用(よう)で働く側となる。
以前の己もそうだったが、初心者が掴まれた胸の体から先に動かしてしまい、魄を上にしてしまうので技にならなかったわけである。

合気道の技をつかう際は接点・支点を最初に動かしてはならない。これは自然の理であり、宇宙の法則である。
胸だけでなく、相手が打ってきた手に接したらその接点を、押したり上げたり動かすのではなく、接点は動かさずにその対象からの力でその手をつかうのである。
勿論、相手が手を掴んできた場合も無暗に手を動かさず、その接点との対象箇所で動かすのである。
因みに、鳥や虫が小枝や草花にとまったり、歩く場合、足との接点を動かさない。足に力を籠めたり、下に押したり、バタバタ歩かないからか細い小枝や草花でも動けるのである。