【第883回】 関節をロックする

これまでは体の関節のロックを外して、その部位を縦・横の十字や円でつかえるように鍛錬してきた。ロックとは固定や癒着である。そして手では、手首、肘、肩が独立しても十字、円に動けるようにしてきた。これが関節のカスを取り去り、関節のロックを外すことである。これで手や体が自由に動き、技がそれなりにつかえるようになるのである。

相対稽古の相手が無理に逆らわず、頑張らなければ、関節のロックを外したままで技が掛かるが、相手が遠慮なく力一杯打ってきたり、掴んでくると技は思うように効かないものである。これは前回前々回で書いた。
前回前々回の正面打ち一教においての「足の反対側の手をつかう」「相手の後ろ足に重心を移動する」にしても、相当な力が要るのである。相当な力とは、これまでのものと質と量の違う力である。相手の打ち下ろしてくる以上の力、それを制し、相手の前足の重心を後ろ足に移動させる力である。
そのためには体全体の力が我手先に集まり、そしてその力が戻らず、出し切らなければならない。

そのために、正面打ち一教でどうすればいいのかを研究すると次の事がわかった。

  1. 前々回「足の反対側の手をつかう」で書いたように、支点の足と反対側の手をつかうと大きな力、腰腹の力が出ることである。
  2. この力が減退しないためには、手が折れ曲がらず、指先から肩まで鉄棒のような手にならなければならない。つまり、手のすべての関節を固定してしまう事である。前にも書いたように、有川定輝先生に指先でつつかれたときは、その指が鉄棒のように感じたことを思い出す。
    また、手だけではなく、足の関節(足首、膝、股関節)、腰腹、首などすべての関節をロックするのである。鉄の足、鉄の胴、鉄の首をつくるのである。
  3. もう一つ大事な事がある。胸を張る事である。胸が張っていないと手は鉄棒のようにはならず、手先の力が戻ってしまう。胸を張れば、肩甲骨が拡がり、頑強になり、そして肩からの手と十字になる。胸(胸鎖関節)と肩の固定化である。強い武人の胸は張っていて如何にも強そうであるのはこの故だろう。
    但し、胸を張るために只胸を膨らませたりしても胸は張れない。胸を張るためには仙骨に働いてもらわなければならないのである。仙骨に息(気)を通し、胸に気を満たすのである。
    仙骨で胸が気で満ち、張るようになるとわかってくるはずだが、手も腰腹も首もすべてこの仙骨のお世話になるのである。つまり、体の関節の固定化には仙骨に働いてもらわなければならないという事である。
これで体の関節はロック(固定)するので、強力な力が出ることになることが分かったわけである。これまでは関節のロックを外す事を修練してきたわけだから、真逆になる。またまた合気道のパラドックスであり、合気道の奥深さである。更なる、これに反するパラドックスが再来しそうな予感がする。
取り敢えず、正面打ち一教がこれで上手くいくようになるようにやってみなければならない。