【第353回】 十字の縦横で
合気道をつくられた開祖は、下記の道歌にもあるように、合気道を「十字道」と言われているし、「合気十」、「愛気十」などとも表記されている。
- 「天地の精魂凝りて十字道 世界和楽のむすぶ浮橋」
- 「ありがたや伊都とみづとの合気十 ををしく進め瑞の御声に」
- 「千早ぶる神の仕組みの愛気十 八大力の神のさむはら」
合気道では十字が大切である、ということである。逆に言えば、十字が分からず、十字の重要性に気がつかなければ、合気道の精進は難しいということになるだろう。
なぜ、合気道では、開祖が十字道とも言われるように、十字を重視しているか。それはなぜかというと、合気道は宇宙や地球創造を記した「古事記」を合気之技として再現し、練磨しているが、万有万物は十字で創造され、そして十字で生成化育しているから、十字が大事である、といわれているのである。
宇宙をつくったのは一元の元である大御神であり、「一元は精神の本と物体の本の二元を生み出し、複雑微妙なる理をつくり、全宇宙を営み、天地万有に生命と体を与え、楽天へと生成化育に導いている」と、開祖は言われている。
つまり、一元の大御心によって、精神(魂)の本と物体(魄)の本が縦と横の十字で絡み合い、結びあって、万有万物をつくってきているということである。宇宙の営みを学ぶ合気道は、この宇宙生成化育、「古事記」の実行であるから、十字ということが大事になるものと考える。
まず、十字とは何かを整理しなければならないだろう。十字は、簡単に言えば、縦と横が直角に交差していることであるが、正確な十字架のような四辺の十字ではなくてもよい。縦横二辺が直角であれば、二辺の延長を考えて十字だとイメージすればよいのである。また、縦横は原則的に直角であるが、場合によっては角度が変わることもある。頭を柔らかくし、イメージを膨らませなければ、十字は理解できないかもしれない。
次に、十字の特徴であるが、一つは、精神の本と物体の本のように、対照的なものが縦と横の十字になること。二つ目は、この縦と横の十字が縦と横に動き、円になる。開祖が言われている○に十の
である。三つ目は、十字の縦の方から先に動かなければならない、ということである。つまり、縦主横従ということになる。
では、合気道の稽古でどのように十字を取り入れ、使っていかなければならないか、ここで思いつく例をいくつかあげてみよう。
- 合気道では、心と体、精神と肉体、魂と魄などと、心体を分けているが、心、精神、魂などが十字の縦であり、体、肉体、魄などが横となる。
- 体は心を入れる器であるから、しっかりした体でなければならないが、しっかりした体ができたら、縦の心が横の体を主導するようにならなければならない。心主体従である。
- 技をかける際、つまり体をつかう場合にも、縦が先に動くのである。例えば、歩を進める際には、まず、縦に天地の気持ちと体の力を出し、次にそれと十字になる地面に沿って、横に歩を進める。そして、足は撞木で十字になる。
- 合気道は手で技をかけるが、手は縦横十字の円でつかわなければならない。そうしなければ、相手をくっつけ、相手とひとつになることもできないし、力が半減してしまう。手を縦につかうとは、手・腕などの先に向かって回すことである。手を横につかうとは、手先を肩や肘を中心にまわすことである。
- この十字を少し拡大解釈して、心の縦をソフト、つまり考え・意志等とし、体の横をハード、つまり実践・結果等としてみる。すると、縦から動かなければならないから、合気道の技の練磨も先ずは考えなければならないことになるだろう。初心者のうちは、心よりまず体を鍛えなければならないのと同じで、まずは体を動かして、その後に考えればよいだろう。だが、上級者になれば、まず考えたことを実行するようにした方がよいのではないかと思う。少なくとも、やること、やったことを考えるべきだろう。縦の考えることが主導しなければ、上達はないはずである。
考えたこと、言ったこと(縦)は、やらなければならないし(横)、やったことは(横)は、自分にも他人にも説明(縦)できなければならない、ということになる。十字である。
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