【第228回】 心身を陰陽で
初心者のうちは、相対稽古の相手も素直に受けを取ってくれるし、上手な相手だったら正しい軌道に導いてくれたりもするが、少し出来ると思うようになってくると、相手は時々頑張ってきて、素直に倒れてくれなくなることが多くなる。
はじめは相手が頑張ったり、意地悪をして受けを取ってくれないのだろうから、受けを取らない相手が悪いと、相手のせいにするものだ。しかし、長年稽古をしてくると、それは自己中心的な考えであって、間違いであったことに気付いてくる。
相手が倒れないのは、相手が頑張っているのでもないし、意地悪しているわけでもないのである。そうではなくて、技を掛ける側に責任があるのである。つまり、相手が受けを取れないような技の掛け方をしているだけなのだ。相手が受けを素直に取ろうとしても、受けが取れないように技をかけているのである。
取りが初心者であって、力もあまりない場合は、受けが導き、修正してやることも出来るが、取りがある程度力がついているとそれも難しく、取りが受けにぶつかってしまったりするので、受けは頑張ったり逃げたように見えてしまうことになる。
また、受けの体勢が崩れていないのに、取りが技を掛けようとすることである。崩れていないということは、受けの体が安定して、足も地にしっかりついているということだから、手とか肩とか首などの体の一部を攻められると、受けの取りようもなく、腹が立つことになる。
その典型的な例としては、誰もが一度は経験するだろうが、次のようなことが挙げられるだろう、
- 四方投げで相手の手が相手の肩のところで止まってしまい、手を切り下ろせない状態。相手が力を入れれば入れるほど、その力がこちらの肩とその下の足に掛かってくるだけで、ますます安定して倒れないのである。これでは受けはとれない。
- 同じく四方投げで、こちらの脇が締まるように入ってくるので、こちらの脇は締まるし、体はどんどん固まってしまい、相手は持った手を上げることもできず、こちらが頑張っているようになる。
- 小手返しで、小手を返されずに手首をいじめられるだけなので、手首が痛いだけで、ますます硬直してしまう。
- 半座半立ち四方投げで、相手に取らせた手を相手が上の方へ引くから、こちらは崩れないまま自由に動けて、受けが取りにくい、等などである。
合気道の稽古は、技の練磨をしているのである。技を掛けて、相手が倒れなければ、その技は効いてないことになるが、相手を倒すことを目的に稽古をしているわけではない。相手を対象にしているのではない。
それでは、相手(人間)を対象に技の練磨をするのではないのなら、何を対象にすればいいかというと、それは「技」であるはずである。合気道の技は宇宙の営み、宇宙の法則を形にしたものであるといわれるのである。技を掛けて上手くいかない場合は、その法則に則っていないはずだから、法則を見つけ、その法則でやってみればよい。
例えば、体とこころ(心身)は反転々々と陰陽で遣うことである。入り身投げなどに多いが、他の技でも、陰陽に遣うことをせず、相手と向かい合った体勢で技を掛けようとしてしまいがちである。
心身を陰陽に遣わなければならない。つまり、心身を上下、左右、交互に、規則正しく遣うことである。
- 下げるときは上げる。前例の四方投げで、手を切り下ろしたいのなら、その前にその手を上に上げればよい。
- 上げるときは下げる。前例の半座半立ち四方投げで手を上げるには、まず相手の手を下に落としこんでから上に上げればよい。
- 坐技呼吸法で、右に相手を倒す場合は、左に一旦捌いて右に倒せばよい。
体も陰陽に切り替えて遣うのは難しいが、こころはなお難しい。気持ちが相手に残ってしまうのである。こころが陰陽に反転々々で自由に遣えれば、技の切れもよくなるはずである。
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