【第292回】 体にガタが来たら
合気道を30年、40年と長年稽古してくると、体を痛める人が結構いるようである。肩が痛くて上がらないとか、膝が痛くて座れないとか、腰を痛くて動かせないとかである。これは合気道病と言えるかもしれない。
これらの痛みの兆候は以前から現れていて、それがだんだんひどくなり、そして、稽古もできないぐらいの痛みまで我慢するのが一般的であろう。
それらの痛みの理由は、次のように考えているようである:
- 年だから
- 無理をしたから
- (周りの人もそうなので)合気道の宿命だから
- 自分の体が弱いから
等など
合気道の稽古を一生懸命にやれば、上のような理由で体にガタが来るのだろう、ぐらいまでは考えるであろう。しかし、ここが大事なところなのである。問題はここでどう考えるかである。
なぜならば、考え方によって、ここで稽古を諦める人と、その痛みを克服して稽古を継続する人に分かれるからである。
ここで稽古を続けるかどうかの選択肢は次のようになろう:
- 痛いから稽古を中断し、そのまま止めていく
- 何とか痛みを取って稽古を続けようと思う
実は私自身も、10数年前のことだが、肩が動かせないほどの痛みを経験した。だが、それを克服したので、体にガタが来たけれども何とか稽古を続けたいと思っている方々に、私の経験とそこから得た理合いをお伝えしたいと思う。
まず、はじめに体のガタは上達の証であり、勲章と考えればよいだろう。ガタが来たのだから、今さらごちゃごちゃとネガティブに考えても仕方がない。ポジティブに考える方がよい。痛みが出るほど一生懸命稽古したということである。長年一生懸命に稽古をしなければ、体に痛みなど残らないだろう。つまり、体に痛みが出る地点に到達したということなのである。
次には、合気道は対照力による引力の養成であることからも分かるように、左と右、陰と陽、表と裏などと相反するものが表裏一体になるように、修行していかなければならない。合気道は、この陰陽の繰り返しといえるだろう。
先ずは、これまでの稽古法、体のつかい方、考え方を、180度変えることが必要になる。これまでの延長線上であるのではなく、別の線上、これまでとは対照になる線上(道)を行くのである。
これらが納得できれば、体の痛み、体のガタを取り除くことはできるはずである。あとは、できるということを信じて、やるべきことをやっていけばよい。
やるべきことは、原因を認識し、その解決策を知り、それを実行することである。至極、科学的である。科学的というのは、誰がやっても同じ結果がでるということである。
体(肩、腰、膝など)の痛みの主な原因として、それまでは、
- 体の裏(胸、腹などの体の前面)をつかっていた
- 手を肩先からの短い手でつかっていた(特に、肩を痛めた原因として)
- 体の末端から先につかっていた
- 表層筋をつかっていた
- 逆の息遣いをしていた
はずである。まず、これを認識しなければならない。
もし、そうだと納得できれば、次にこの痛みをつくった原因を立ち切り、これまでと180度転換した体つかい、息つかいをすればいい。これが解決策である。つまり、
- 体の表をつかう技の練磨をすること。力は踵(かかと)、ふくらはぎ、大殿筋、背中、腕の小指側と体の表側(背面)をつかわなければならない。二教裏などは、特に注意しなければならない。体の裏側(前面)に力を入れると、二教裏などかかるものではないし、膝に力がかかってしまうために、膝を痛めることにもなる。膝を痛める最大の原因は、この体の裏(前面)に力を込めてしまうことだと考える。
- 手は長い手をつかわなければならない。手を真横に広げるとわかりやすいが、手は指先から胸鎖関節まである。これを、指先から肩までが手だとしてつかうために、肩に負担がかかり、肩を痛めてしまうのである。従って、手は肩を貫いて長くつかわなければならない。手を長くつかう、つまり肩を貫くための練習法はあるが、度々、紹介したので省略する。
- 手や足の体の末端から動かさず、体の中心である腰腹から先に動かして手足が動くようにしなければならない。そうしないと、末端と腰腹の結びが切れてしまうので、力も出ないし正しい軌跡も描けない。剣道などの武術だけでなく、野球のバッティングや舞踊でもダンスでも、下手は手先から動かしているが、名人や上手は腰腹から先に動かしている。
- 入門当時や若い内は、どうしても力んで技をかけるものだ。力まないと稽古しているような気にならないし、はじめはこれで腕力がつくからである。パワーの合気道ができるためには、腕力も大事である。
しかし、いつまでも力んでいると筋肉が疲労してくるし、力の限界を感じて来るはずである。力んでつく筋肉は表層筋である。力むと表層筋はできるが、その下にある深層筋が働かないし鍛えられない。深層筋は骨に近い筋肉なので、大事な働きがあるはずである。相手の手をくっつけたり、相手と一体化するのは深層筋であろう。表層筋では相手を弾いてしまい、引力には余りならないようだ。
- それまでは息を吐き手から力を出したり、息を吐きながら柔軟体操をしていたはずであるが、これを180度変えるのである。つまり、息を吸いながら(下腹に息を引きながら)力を出し、技を掛け、柔軟体操の開脚でも体を折っていくのである。それまでとは全く逆の息づかいになるわけである。息づかいはさらに変わっていくが、とりあえずはこの息づかいができなければならない。
この他にもあるだろうが、特に腰の痛みを取るには、体を捻じらずに面でつかうことである。そのためには、ナンバで歩を進めるようにしなけれならない。
この5+1を変えることができれば、体の痛みは消えていくと信じる。何といっても、ここに痛みを消したサンプルがあり、それが実録を書いているわけだから。
Sasaki Aikido Institute © 2006-
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