【第148回】 摩擦連行作用

合気の道を開いていく合気道は、まず合気道の技と業を通して進んでいく。技を覚え、技が少しでも上手くかかるように、稽古していくのである。

技が上手く掛かるというのは、自分だけではなく、技を掛けられ、受けを取る相手も上手いと認め、参ったと思うものでなければならない。つまりは主観的なことではなく、客観的な判断基準がなければならないということになる。

相手を技で倒したり押えるにしても、腕力でやられたら、相手は本当に参ったとは思わない。日常の力(「ケ」)ではない、非日常的な力、「ハレ」の力でやられなければ納得しないだろう。この「ハレ」の非日常的な力とは、開祖の言葉では、宇宙生成化育の力であり、陰陽の摩擦作用であるという。この摩擦作用によって、ものが生まれ、整い、緩急自由になるという。これを開祖は、「宇宙の動きは、高御産巣日神、神産巣日神の右に舞い昇り左に舞い降りるみ振舞の摩擦作用の行為により日月星辰の現われがここにまた存し、宇宙全部の生命は整って来る。そしてすべての緩急が現われているのです。」(「合気真髄」)と言われている。

摩擦作用を起こすのは、陰陽バランスが取れることによって、陰陽が絡み合って上下(左右)に振舞い摩擦作用が起こるという。例えば、相手が手を持って来て技を掛けるとき、持たれた手は陰陽に遣わなければならない。手で相手の手を引っ張るだけでは、陽だけのため相手をくっつける陰がないので、相手が手を離せば、技はかけられない。また相手(体と気持ち)が生きていて崩れてないので、危険でもある。持たれている片手の接点にも、陰陽が働かなければくっつかない。片手の中でも陰陽が働かなくてはならないし、両手を遣う場合には両手が陰陽で働き、摩擦作用を起こすようにしなければならない。これがないと技は効かない。

その典型的な技が、例えば小手返しである。小手返しはなかなか難しい技であるが、この摩擦作用がないと効かない。先人はこのための口伝として、「両手は縄をナウようにつかえ」と教えている。

摩擦作用を使って相手と結び、技を掛けることを、開祖は「摩擦連行作用」と言われている。摩擦作用によって、相手と結び、くっつけてしまい、自由に動かしてしまうことである。慣れてくれば、相手が手を持たなくとも、相手とくっ付けて、連行することができる。この摩擦連行作用は、合気の真髄を把握する上で大切だという。

この摩擦連行作用の稽古には、相対稽古での転換法(写真)、呼吸法がいい。逆半身転換法で、相手の手を切らず、相手を連行出来るようにするのである。呼吸法でも、片手にしろ、諸手にしろ、相手と結んで、相手をくっつけて一体となり、自由に連行できるように稽古するのがいいだろう。徒手でできれば、剣を遣っても、杖を遣っても、相手の剣杖をくっつけて、摩擦連行作用を遣うことができるはずである。