佐々木合気道研究所

【第871回】 手と胸

合気道の技は手で掛けるから手は大事である。手が大事と云う事は手の働きが大事と云う事である。手の働きの大事な事は主に、繊細な動きと大きな力を出すことであるだろう。繊細な動きとは、十字、十字に返る動き、縦に伸縮したり横に膨縮する動き、親指が支点となり他の指が動く動き、名刀のような動き等である。これはこれまで書いてきた事である。

手から大きな力が出るようにもこれまで書いてきた。復習すると、片手取り呼吸法では、

• 手を肉体的に鍛える。筋肉をつけ、腕を太くすることである。相対稽古でしっかり掴んでもらい腕を鍛えたり、木刀や鍛錬棒を振ればいい。その内、限界を感じることになるから次の段階に入ることになる。
• 手と腹を結んで腹で手をつかうのである。これまでの細い手が太い腹の手にかわるから、大きな腹の力が手から出るようになる。これも限界があるので次に進むことになる。
• 手と腹を結んで、今度は左右の足を陰陽につかう。足の移動で手をつかうので手先に体の重さが集まる。足の陰陽に合わせて腰腹を十字に返せば更に大きな体の力が出る。その内、また限界がくるので次へ進む。
• 上記の手づかいを息でする。息で体を導くということである。はじめは、イクムスビの息づかいで手をつかえばいい。これまでと異なる力が出るはずである。気の力も生まれてくる。そして相手に密着し、一体化を感じるようになる。

ここまでは手の力は主に腹の力、正確に言えば、腹からの力である。これでも相当な力であり、諸手で持たれてもほぼ返すことができる力である。ここまではこれまで書いてきた事である。

これで手の力は最高のものなのだろうと思ったのだが、この力でも十分でないことが分かってきたのである。まだまだ相手がしっかり掴んでくる力を上手く制する事が難しいことが分かってきたのである。更に次の段階に移らなければならないということになる。
そして手からの更なる力をどうすればいいのかが分かったのである。それは、

• これまでの腹からの力ではなく仙骨からの力、体の裏ではなく体の表の気の力をつかうということである。表に出した神（魂）の力で手をつかうということである。
  片手取り呼吸法で具体的に説明すると、手を出して掴ませたら、息を吐きながら腹の気を仙骨に流し、気を胸に満たし横に拡げる。
  布斗麻邇御霊の形で表せば腹（腹中）はととのであり、胸（胸中）はとなるが、まずは腹中の気を仙骨から体の表に流し、手先に流す。気に満ちた頑強な手になる。
  この腹中と胸中の気で一体化した手で相手を制し、導くのである。その胸と一体化した手の好例を下記に示す。（腹もつかうがここでは胸に注目した方がいいので、腹は省く）
  
  

  

  有川定輝先生の正面打ち一教の手である。気で満ちた手と胸が一つになり、手は胸と一緒になり、胸で手をつかっていることが分かる。当時、有川先生が何故とてつもなく強力な力を手から出されていたのか分からなかったが、胸で手をつかわれていたと分かったわけである。

手から更なる強力な力を生むためには、胸と手を一体化してつかうということである。お相撲さんの突いたり、押したりする手は胸と一つになっていることでも分かる。