【第841回】 膝をつかう

「合気道の技の形は体の節々をときほぐすための準備です」(「武産合気」P.37)とあるように、合気道を精進していくためには、体の節々をほぐさなければならない。体の節々をほぐすとは、節々の不要物を取り除くことであり、そしてその結果、その部位が鍛えられることである。この節々の不要物を取り除くことを大先生はカスを取ると言われておられた。
これまで合気道の技をつかい、また、技の為に体の節々をときほぐしてきた。手の指、手首、肘、肩、胸鎖関節、肩甲骨、足底(踵、小指球、母指球)、足首、股関節等である。
取り分け、手の節々のカス取りは入念にやり、手を刀としてつかえるようにしてきた。手首、肘、肩、胸鎖関節が、それぞれ手首から先を短刀として、肘から先を脇差として、肩から先を刀として、胸鎖関節から先を太刀としてつかえるようにした。

ここまでで分かったことは、これらの体の節々の部位は腹と結び、腹からの力で、腹によって働くという事である。また、腹は腰と結び、腰が“体”、腹が“用”として働くことである。従って、上記の部位は腹と結び、腹によって働くことは、腰に結び、腰で働いていく事になるわけである。つまり、腰は体の中心の“体”であるということである。(腹は腰の“用”、体の節々の部位は腹・腰の“用”となる)

さて、これまで体の主な節々をほぐし、鍛えてきたわけだが、まだひとつ欠けている部位がある。それは膝である。これまで膝をほぐし、鍛えなければならないと思ってはいたが、その方法がわからなかったのでそのままにしてあった。
最近になってようやく、膝の重要な役割とつかい方がわかったので書き留めておくことにする。

前回、前々回で書いたように、足も陰陽十字につかわなければならないわけだが、この足の陰陽十字は容易ではない。只、無暗に体や足を動かしても陰陽十字にはならないからである。はじめの内は意識して、陰陽十字の形に自分の足と体をはめ込んでいかなければならないだろう。
陽の前足が爪先の縦方向に進み、そして爪先が縦方向から横に返ると後ろ足が陽に進み、左右の両足が十字になる。足はこのように十字十字で働かなければならないが、このために膝が重要なのである。強いて言えば、膝によって足の十字がつくられるといっていいだろう。
膝は足先の方向を向いているので、足先が縦から横に返れば、膝も返ることになる。
しかし、膝はそう簡単には返ってくれないものである。膝は腹で返さなければならないのである。腹で膝を操作するのである。
故に、腹と膝は同じ方向を向き、同時に返ることになる。従って、足先と膝と腹の向きと返りは一緒になることになる。因みに、膝が腹と別な方向を向くと、膝を捻ることになり、膝を痛めることになる。膝は腹同様に捻るのではなく、返さなければならないのである。

これが膝のカスを取る事、膝をときほぐすこと、そして膝を鍛えることだと考えている。