【第807回】 剣の手で手をつかう

合気道の技は手で掛けるので、手のつかい方は大事であると、これまで書いてきた。例えば、腰腹と手を結び、腰腹で手をつかう。手(手先、腕、二の腕)が折れ曲がらず、一本の手としてつかう。腰腹の力が手先に流れるよう、肩を貫く。手の平は、親指を支点として小指側を返す等々である。
今回は、これらを土台として更なる手のつかい方を研究してみたいと思う。

己の手のつかい方を冷静に観察してみると、相手が手首を掴みにきた時の手の出し方や、正面や横面で打ってきた時の己の手の上げ方が全然分かっていない事が分かった。謂ってみれば、己の手をいい加減につかっているのである。そこには理合いがない。更に注意して見ると、技を掛けている手にも理合いがなく、ただ手をつかっている事が分かったのである。相手が適当に掴んできたり、打ってくるぶんにはそれでもよかったが、相手も力一杯に掴んだり、打ってくると、適当では捌けないのである。諸手取呼吸法などでよくわかるだろう。

合気道の技には法則・条理があるわけだから、手の出し方や上げ方、そしてつかい方にも何かあるはずである。
そこで最近分かった事が、剣の手で技をつかう事である。これまで振っていた剣の手をつかうのである。
二本の左右の手を、剣では左右一本にして共につかうが、合気道では左右の手を左右に分けて陰陽でつかう。手の陰陽とは、働いている手が陽の手、働く待機をしている手が陰の手である。また、陽の手は陽の足の側にあり、陰の手は陰の足側にある。つまり、手と足は左右同じ側にあり、一緒に働くことになる。ナンバの歩行はここから来ることになる。尚、足の陽、陽の足とは重心が掛かっている方の足である。
この左右の手を陰陽に、そして剣の手でつかうのである。剣の手を離して、各々の足の上部に置き、腰腹の十字と足の陰陽十字で、手を剣の手でつかうのである。前に出す手も、振り上げる手も、相手の手を返す手も剣の手でやるのである。剣の手をつかうのだから、左右の手は離れていても、手の平が向き合っていなければならないことになる。剣を握れば左右の手の平は向き合っているからである。
剣の手をつかうことによって、手には気と力が満ち、折れ曲がらない強靭な手となる。また、先述の親指を支点とする手の平の返しの感じもつかめ、その重要さも分かるはずである。

剣の手で技をつかうのが上手くいかない場合や力が出なかったり、相手の力で上から抑えられたりして手が上がらない場合、更によりよく剣の手の威力を実感したいのなら、剣を持ったつもりで、左右の手を一緒にしてやればいい。諸手取呼吸法でやってみれば、それが分かるだろう。
勿論、一教でも、四方投げでも、入身投げでも、また、坐技呼吸法でもその効果がわかるだろう。

以前にも書いたが、二代目吉祥丸道主は、「合気道の動きは剣の理合であるともいわれているほど、その動きは剣理に則している。故に徒手における合気道の手は、剣そのものであり、常に手刀状に動作している(合気道技法 P.44)」「剣の道に経験のある人が合気道の動きを見ると、必ず剣の動きと同一である、と言われる。なるほど、合気道のどの技をとりあげてみても、剣の理法との一致点を見出すことができる。・・・合気道の技の半分は刀剣を使用しての技であることを知っておくべきである(合気道技法 P.252)」と言われている。剣の研究、剣の鍛練も大事ということである。