【第754回】 背中をつかう

有川先生や強かった先輩たちの受けを取った時を思い返すと、掴んだり、受け止めたりしたときの先生や先輩の手の力が異様に強かった事である。異様な力とは、自分には到底出ないような強力な力であり、人には通常出せそうもない力という意味である。
そのような強力な力が何故出るのか、そしてどのようにすれば出るようになるのかが一寸わかってきたので記しておく。

この目で道場での稽古人を見ると、初心者ほど、手は体の前面の筋肉を使っており、それで技を掛けている事がわかる。手を上げ下げするのも、横に返すのも体の前面でやっているのである。これだとどうしても手振りとなってしまい、大きな力は出ない。剣を振っても手振りとなってしまい、所謂“大根切り”になるわけである。

手から強力な力を生じさせるためには背中をつかわなければならない。背中の筋肉をつかうのである。背中の僧帽筋や広背筋をつかうのである。
しかし、手と背中の僧帽筋や広背筋に結び付け、そしてそこから力を手先に流すのは容易ではないかも知れない。
何故ならば、手と背中の僧帽筋や広背筋などの筋肉は直接結び合っていないので、すぐにはその力がつかえないからである。
背中の力をつかうためには、手と背中の筋肉を結び付けなければならない。

手と背中の筋肉を結び付けるためにどうすればいいかを一言で云えば、胸を開くことである。胸を横に開けば手と背中が結びつくのであるが、この胸を開くをもう少し詳しく見てみると、

  1. 胸鎖関節を支点として肩鎖関節まで息と気で拡げる(横)
  2. その下にある肩峰下関節から肩甲上腕関節に息と気を落とす(縦)
    これで手(手先から胸鎖関節まで)と背中の筋肉が結びつくことになる。
(下図参照)

手が背中の筋肉と結ぶと背中の筋肉の力が手先に伝わるから、強烈な力が生まれることになるのである。これまでも書いてきたように、体の表は背中であるから、体の裏から出る力とは雲泥の差があるわけである。
合気道の技も剣も背中をつかわなければならないということである。
これで初心者は胸が閉じていて、又上手は胸が開いている理由が分かり、そして有川先生や強かった先輩たちの力が何故強力だったのか分かったようである。