【第728回】 縦軸を大切に

合気道の稽古を長らく続けていると、これまで分からなかったことが少しずつ分かってくるのが面白い。相対稽古で後進達と技を掛け合っていると、彼らがどうして上手く技がつかえないのが見えてくる。そしてそれは己が過って出来なかった原因であることも分かるのである。

最近分かったことがある。それはほとんどの後進達は“横から”先に動いているということである。
合気道は十字道ともいわれるように、縦と横の十字の思想と動きで技をつかう武道であるが、“縦から”つかわなければならないのである。
その典型的な間違いの例は、相対稽古で技を掛ける時、まず、手を出してしまうことである。手を出すという事は、天地の縦に対して横からの動きとなり、上手くいかないのである。相手がしっかり掴んだり、打ってくればそれが分かるはずである。手を横から動かせば、力が出ないだけでなく、相手の手とぶっつかったり、相手に抑えられたり、争いになる。魄と魄のぶつかり合いや争いになるわけである。

技をつかう際は“縦から”動かなければならない。まずは、手より先に縦軸の体軸に働いてもらうのである。
それでは体を何故、“縦から”つかわなければならないのかというと、合気道をつくられた大先生がそう言われているからである。大先生は、「天の呼吸により地も呼吸するのであります。天の呼吸との交流なくして地動かず」と言われているのである。天の呼吸とはお日さんとお月さんの呼吸であり、吐く息である。因みに、地の呼吸とは引く息で、潮の満干である。
だから、縦軸の体軸に天からの息を吐きながら地に落し(お日さんの息)、更に息を吐き続ける(お月さんの呼吸)と地の呼吸(潮の満干)と一緒になり、横の手が自然と上に上がってきて、相手と結ぶのである。つまり、手はこのお月さんの呼吸の吐く息で上がるのである。

稽古でもそうだが、人は無意識の内に“横から“動かしてしまうようである。片手取りに対しても、正面打ちや横面打ちに対しても手を先に出してしまうのである。また、剣や杖の素振りでも“横から“動かしている。所謂、手振りである。
これは闘争本能がなせるものではないかと考える。以前も、そして今現在も物質文明であり、モノ主体の社会ということで、競争社会となりそれに負けないよう横の手から使ってしまうように思える。従って、”横から”ではなく、“縦から“体と技をつかうためには、魄の稽古から魂の稽古に変えなければならない事になる。魄の稽古をしている間は、”横から”つかわなければならないからである。

“縦から”技と体をつかえるようになると、異質の稽古になる。それまでの魄の稽古から魂の稽古になり、己の力に加えて、天地の力、宇宙の力が加わり、これまで以上の力という量的に違う力ではなく、相手と一体化し、相手を導く引力と説得力のある力を出せるようになるようだ。
今は主に呼吸法でこの稽古をしているところである。