【第693回】 宇宙をつくる、宇宙になる

かって大先生のお話をお聞きしても、それがどういう事なのか解らないことがあったし、不謹慎乍ら、それは違うのではないかとさえ思ったことがあった。
例えば、合気道は日々変わらなければならないということである。
合気道は技を練って精進するのだと言われていたので、その精進する技が日に日に変わられては困ってしまうと思ったわけである。

しかし、今になると、合気道の技は変わっていくし、変わらなければならないだろうと思うようになった。
だが、まず注意しなければならない事は、変わるモノもあるが、変わらないモノ、変わってはいけないものもあるということである。
合気道として、また武道として変わらないモノがある。気育知育徳育常識の涵養体育であり、悪や敵を殲滅する力を失ってはいけない事などである。平和ぼけした社会に迎合したような技に変っていく事ではないということである。
そうではなく、その変わらないモノをますます堅固で良質に変えていくのである。それが結局は、技は日々変わっていくということになると考える。

己の合気道、そして技を変えるために、大先生は、「武を修する者は、万有万神の真象を武に還元することが必要である。例えば小川の渓流を見て、千変万化の体の変化を悟るとか、また、世界の動向、書物をみて無量、無限の技を生み出すことを考えるとかしなければいけない。」(『合気神髄』P.106 )と教えて下さっておられる。
万有万神の真象から学び、技を深め、そして宇宙に近づいていけということである。

合気道の修業の目標は宇宙との一体化である。宇宙との一体化とは、己も宇宙になるという事でもある。己を宇宙ができたときと同じようにつくればいいわけである。
しかしこうなると合気道だけでは手に負えない。そのために大先生は、「武を修する者は、万有万神の真象を武に還元することが必要である。」と言われているのだと思う。

前回の論文で引用した、ホーキング博士の『ビッグ・クエッション』(NHK出版)に「宇宙を作る三つの要素」という文があるが、この書物から合気道の宇宙がつくれないか、宇宙の技がつくれないか研究してみたいと思う。

ホーキング博士は、「宇宙を作るためには三つの要素がありさえすればよいことがわかっている。第一の材料は物質で、これは質量を持つ。第二の材料は、エネルギーだ。第三の要素が、空間、それもだたっ広い空間だ。宇宙はさまざまに形容することができる ― 畏怖の念を起こさせるとか、美しいとか、荒々しいとか。・・・」

この理論に従って、合気道で宇宙になるためには、次の三つの要素が必要になるだろう。第一の材料の物質は身体、第二の材料のエネルギーは気(気力、魄力)、第三の要素の空間は技(業)ではないかと考える。

しかしホーキング博士は、有名なアインシュタインの式E=mc?から、主たる材料のふたつである質量(m)とエネルギー(E)は、本質的には同じ(=イコール)だという。つまり、「宇宙にはエネルギーと空間という、二つのものがあるだけだという。そしてそのエネルギーと空間は、今日私たちがビッグバンと呼ぶできごとが起こったときに自発的に生じたのだという。(p.46)
因みにE=mc?を合気道の世界で見てみると、Eを技のエネルギーと考えれば、mは体、cは速度ということになるだろう。技が極まるためのエネルギーは身体mと速度cの二乗ということになるが、本人の身体mは定数となるから、速度を速めれば効果的という事になるだろう。

合気道の宇宙とは「武」ではないかと考える。宇宙の一体化とは武との一体化であり、武との一体化することが即ち、宇宙の一体化となると考える。合気道は武、絵画や書は美等との一体化が究極の目標の宇宙との一体化となるはずである。分野によって一体化の世界は異なるが、すべての分野での究極は宇宙との一体化に結び付くと考える。

大先生は、「全大宇宙を師としている私の創造物は武である。すべて武を行じるものは、自己の体内から武を産みだすことができ、自己の道を開くことが出来なくてはならない。」そしてまた、「本当に魄の上に魂をのせ、魂の比礼振りによって、永遠の美わしい世を建設して、万有万象本当によろこんでもらえるようになれば幸甚である」、更に「魂の比礼振りは、あらゆる技を生み出す中心である。その魂の比礼振りは融通無碍で固定したものではない。ゆえに合気道の技は固定したものではなく、臨機応変、自由自在の技である。合気道はこの魂の比礼振りによって、生ずるか、根元はあくまで、宇宙の真象のなかより、生ずるひびきのなかにあることを忘れてはいけない。」(合気神髄 P.107,108)と云われているのである。


このことから、合気道の宇宙をつくるためにはどうすればいいのかを、ホーキング博士の宇宙論と関係づけながら、まとめてみたいと思う。
ホーキング博士の宇宙は、合気道の武の世界と考える。そうすると武に必要なのは、魄と魂ということになり、魄はホーキング博士のいう質量(m)とエネルギー(E)に相当する。そうすると空間が魂ということになるだろう。
魂は宇宙の空間のようにだだっ広い、無限の空間で、固定したものではなく、自由自在である。だから、魂が空間ということになってもおかしくはないと思う。
しかし、魂はまだよくわからないが、宇宙の空間も然りである。共に研究をしていかなければならない。

参考文献:
『ビッグ・クエッション <人類の難問に答えよう』(NHK出版)
『合気神髄』(八幡書店)