【第687回】 イクムスビから阿吽の呼吸へ

これまで、合気道の技はイクムスビの息づかいでやらないと、上手くいかないと書いてきた。イーで息をちょっと吐き、相手と結ぶ、次にクーと息を引きながら合した相手を導き、ムーと息を吐きながら相手を投げたり収めるわけである。このイクムスビの息づかいは不可欠であり、誰もが身につけなければならない呼吸法であるはずである。

しかしながら、このイクムスビは必要でも、まだ十分ではないようなのである。イクムスビは出すか引くかなど一方的力を出せるが、陰陽の対照力を出すのは難しい。また、稽古相手や人間を相手にするならいいが、天地や宇宙のお力をお借りするためには不十分であるということである。

この必要十分条件を満たす呼吸が阿吽の呼吸なのである。
それでは阿吽の呼吸とはどのような呼吸であるのかを、これまでの研究結果を書いてみる。

阿吽の呼吸はどのような呼吸なのかを書いたものはないようなので、自分で会得するほかない。しかし、合気道の修業をしていればそれほど難しいことではない。何故ならば、合気道では宇宙の法則に則った技を錬磨しているわけだから、その法則に合したことをすれば技が効くし、そうでなければ効かないことがわかるからである。また、阿吽の呼吸の前にイクムスビの呼吸を身につけるわけだから、阿吽の呼吸に入るのはそう難しくないと思われるからである。阿吽の呼吸を身につけるためのもう一つの大きな宝がある。それは金剛力士像、所謂、仁王像である。この阿吽の仁王像の姿(写真)になるように呼吸をすればいいということである。阿吽の呼吸を正しくすれば、あのような姿、形になるはずであるからである。   

それでは、阿吽の呼吸をどのようにすればいいのかを書いてみる。
まず、阿吽のンーで天の気を自分の足下の地に落す。これはMUSTである。
すると地から気が腹に上がってくるから、ここで阿吽のアーで口と目を横に開きながら息を引く(写真左1)。腹が膨らみ、(写真左2)腹から下に足を通して気と力が下り、また、腹から上に気が胸に入り胸が膨らみ、胸から肩、腕、手先に気が流れる。(写真左3)

ここから阿吽のアーは、ただ息を吐くのではなく、息を引き(吸い)ながら息と声を出しており、それによって気と息も陰陽に対照力で働くことになる摩訶不思議な呼吸なのがわかる。
吽(ンー)息を吐く。口を結び(写真右1)、腹が張るが、アーで息を吸うときと違い、腹の中央は円く膨らむが、その周辺が筋肉で盛り上がる(写真右2)。体中、手先まで気と力で更に満ち、盤石の態勢になる(写真右3)。

このように阿吽の呼吸での阿(アー)と吽(ンー)では目、口、顔、腹などの使われる筋肉が違ってくるから、これを観察すれば、阿吽の呼吸を身につける事ができるだろう。

更にもう一つ阿吽の呼吸の違いを付け加える。
それは体幹の張り方の違いである。阿吽どちらもはち切れんばかりに気と力で張り切っているが、阿と吽では張り方が明らかに違っているのである。
阿の呼吸では、息を引く(吸う)ことによって気と力がその対照力として体から発散しているが、吽で息を吐くことによって、腹が締まり、その締まることによって気と力が発散しているはずである。(写真)    
阿吽の呼吸を身につけるためには、このような筋肉や顔や姿勢になるように稽古していけばいいだろう。そして阿吽の呼吸を技に取り入れていき、身に着けていくのである。阿吽の呼吸を技に取り入れるためには、これらの阿吽の呼吸の形や姿も取り入れなければならない。仁王様になったつもりで技をつかうのである。
しかし前述したように、イクムスビの息づかいが身に着いていなければ難しい。イクムスビから阿吽の呼吸なのである。先ずはイクムスビである。
阿吽の呼吸で、これからの技づかいも変わるだろうと期待している所である。