【第46回】 背を鍛える

戦前の稽古の様子をフィルムやビデオで見ていると、今の稽古風景と大分違う。当時は、体ができた柔剣道の有段者しか入門できなかったようで、まず体格が違っている。柔剣道では満足できない人たちが合気道にきたのだから当然であろうが、今は反対に、どちらかというと柔剣道やスポーツが苦手な人が集まってきているようにも思われるので、体ができてから来る人は少ないだろう。

それにしても戦前のフィルムの中の稽古人たちは、非常に大きくみえる。よくみて見ると、体格がいいという理由だけではないようである。その他に、大きく見える理由があるようだ。そして、それは背にあるように思える。つまり、古い人たちは体の表である背から力を出すので、背の部分が張っている。今の稽古人は体の裏である腹・胸側から力を出しているので、背がちじみ、小さく見えるのではないか。

昔から、「子は親の背を見て育つ」といわれるように、人の背は大切な部位である。今の稽古人も、背を見るとその人の技の程度がわかるが、特に、後ろから立ち姿や座った姿を見るとよく分かる。技をかけるときにも、初心者は背側より胸側を使ってしまうので、背の張りがなく、よけい小さく見えてしまうのだ。

背側を鍛えやすい稽古法に、坐技呼吸法がある。この技は背中からの力を手先に伝えるものであり、背からの力を使わないで腹側の力を使うと、相手とぶつかってしまい上手くいかない。この技の力は、袴の腰板のところから背中を通して腕から手先に伝えるものであるが、腰板のところには命門というツボがある。命門は、生命力の根本である腎の臓の間にあり、エネルギーの元ともいえる。坐技呼吸法は、ここの命門がある腰板から力を出し、背中、腕、手先へと力を伝える稽古であるので、背中を意識しやすい稽古法といえる。

後ろ両手取りの稽古法もこの腰板から背中、腕、手先と背に力を流す、分かりやすい稽古法である。両手を後ろから掴ませたとき、体の表である背側の力が、相手の体の裏である胸や腹側によって持っている力と比べて、いかに大きな質的・量的な差があるかが分かるだろう。

坐技呼吸法や後ろ両手取りで背から力を出すことができるようになったら、今度は、他のすべての技で背からの力でやるようにすればいい。

背を鍛えて、技を効かすだけではなく、子どもに見られても恥ずかしくない背にしていきたいものである。