【第353回】 武道においての重さ

合気道は相対で技をかけあい、受けをとりあいながら、精進していく武道である。技をかけるに当たっては、少しでも安定した体勢と動きで技をつかいたいし、受けも捕りの相手に翻弄されることなく、どっしりと取っていきたいものである。

このためには、体と動きに「重さ」がつくように、稽古していかなければならないだろう。そこで、先ず「重さ」とはどういうものなのか、を整理してみなければならない。

科学の世界では、「重さ」とは、その物体に働く重力の大きさ、および、慣性力の大きさ、といわれる。重力は、万有引力ともいい、二つの物体間に働く引力であり、その二つの間の距離とそれぞれの物体の性質とに応じて働く力である。 物を手に持った時に「重さ」を感じるのは、その物が地球の引力によって手に力を及ぼすためである。

慣性力とは、提げているカバンなどを揺らしてみると、感じられる力である。

武道である合気道では、これらの万有引力による重力と、質量(重さ)の大きさとスピードによる慣性力を、有効につかわなければならないだろう。

相手に技をかける際に大切なことは、しっかりした中心を持ち、その中心から力を出していく、ということである。体の中心、力の源は腰腹であるが、技は足でかけるとも言われるように、足は重要である。足から地のエネルギーを得るためには、体重をかけた足と地球の中心を結び、万有引力による重力を自分の体に得なければならない。この重力を腰腹から末端の手先まで伝えれば、大きい力が出ることになろう。

次に、慣性力を有効につかうことである。合気道では、野球のボールのような直線的な慣性力は、基本的にないはずである。直線ではなく円の慣性力であり、すなわち、遠心力と求心力として働くものである。

円で慣性力を出すためには、十字の動きをしなければならない。手先や腕を縦から横、横から縦にかわすと、その先端は円で動くことになる。足は撞木でつかうと惰性力が出るし、腰も十字に動くので慣性力が出るのである。

慣性力は質量に関係するので、大きい人は大きい慣性力が出るわけだが、質量の小さい人でもスピードをつければ大きい慣性力になる。勢いよく技をかければ、大きい慣性力がでるので、技も効きやすくなる。従って、慣性力が出るように、体をつかわなければならないことになる。

これは、万有引力と慣性力から自分の体の重さを得て、活用することであるが、相手にかける技にも重さが必要である。軽い技では効き目がない。「二教裏」など、手先の力でやってもなかなか効くものではない。万有引力や慣性力のお世話にならなければならないのである。

重い技とは、がっちりした、不動の、スキのない技ということになろう。その力とは小手先ではなく、体全体からの力、そして自分を超越した力、例えば、地球の力や宇宙の力であろう。

先述の体の重さは、万有引力と慣性力から出てくるので、技の重さも万有引力と慣性力から得ればよいはずである。 万有引力をつかって技を重くするためには、万有引力の元になる地球の中心に向けて落とせばいいだろう。

従って、技を重くするために最も効果があるのは、万有引力に合わせて慣性力を働かせることだろう。これを、地の呼吸に合わせて仕事をするということになるのではないだろうか。このためには、踵(かかと)側の体の表をつかわなければならない。

慣性力をつかって技を重くするためには、技を円の動きでつかうことである。決して止まってはならない。また、身体を十字、十字につかっていかなければならない。

この他にも、重い体や重い技をつかうためには、心(気持ち)と呼吸が大事である。気持ちが上がれば、体は浮いてしまったり、ふらついてしまい、軽い体になってしまう。

気持ちが浮かないため、重い体にするため、そして重い技を出すためには、息遣いが大事である。息を出す(吐く)ときは丸く、息を入れる(吸う)ときは四角に吸うと、体は地と密着しやすくなるし、安定するものである。