【第926回】 頑強な手をつくる

合気道の技は手で掛けるので手を鍛えなければならないと幾度か書いてきた。一度で書くべきなのだろうが、一つ書いては次を書くとの繰り返しであった。これは今の時点で過去を振りかえるからわかったことで、当時はこれが手を鍛える決定的な方法だと信じていたわけであるが、更に新たな方法が現われことになり、それを書くので幾度か書く事になったわけである。もし書籍で書く場合は幾度も書くわけにないかないので、一度にまとめて書かなければならないだろから本には書けないし、書かない。

それでは頑強な手をつくるためにこれまでどのような方法、鍛錬が必要だと書いてきたかを振り返ってみることにする。
まずはじめは、手に力をみなぎらせ、その手をつかう方法である。息を吐いて、吐きながら手に力を込めるのである。これは初心者が誰でもやる事であるし、合気道以外、また日常生活でも行われている事である。
これから分かってくる訳だが、この鍛錬法は理想的ではない。所謂、魄の鍛錬法である。しかし魄力の力をつけるためにもこの鍛錬も十分にやるべきであり、必須の鍛錬法と考える。
次の手を頑強にする方法である。イクムスビの息づかいで手を頑強にするのである。イーと息を吐き手を縦に伸ばし、クーで息を引き手を横に拡げ、ムーで息を吐きながら手を縦に伸ばすのである。手が縦→横→縦の十字になり、頑強な手、折れ曲がらない名刀のような手がつくられるのである。

ここまではこれまで書いてきた事であり、これは誰にでも出来るし、やるべき最高の頑強な手作り法、鍛錬法だと思っていた。しかし、更なる方法が出てきたのである。その方法で手を鍛え、その手をつかうと、このイクムスビの息づかいの手はまだまだ不完全、つまりまだ弱いということがわかるのである。

最新の頑強な手をつくる方法である。それは『合気道の思想と技』で最近書いている「息陰陽」による方法である。
息は前述のように息を吐いてから手をつかうのではなく、陰の息での手をつかうのである。息を引き乍ら(陰)腹と結んだ手掌の親指(母指球)を体(支点)に手刀(小指球と掌底を結んだ箇所)を用につかい、腹を股関節で十字にすると手掌は体の中心(腹と顔を結んだ線上)に上がり、頑強な手ができるのである。因みに股関節が横に拡がるのが陰の息であり、縦が陽になる。

息陰陽での手は頑強である。程度の差はあるものの誰もがそれを自覚出来るとはかぎらないようだ。自覚できない稽古相手にはこれが頑強な手だと言ってやるのだが、自覚できないようで、そして次には忘れてしまうようだ。

この陰陽の手の頑強さが分かってくると、大先生の頑強な手を思い出す。その中で一番印象が強いのが、片手で持った杖を屈強な若者に横から押させてもびくともしなかった事である。まさしく神業である。
そしてこの大先生の頑強な手はこの息陰陽の中にもあった事がわかってきたのである。

この息陰陽による手こそ最強の手ではないかと思うが、まだ何かあるかも知れない。