【第918回】 三角法・三角体

かって大先生からよくお話を聞かせて頂いた。我々の稽古中に突然、道場にお入りになりお話を始められるのである。大先生がお見えになると全員正座してお話を伺うことになる。我々若い稽古人達は稽古をしたくてうずうずしているので大先生のお話が早く終わる事を祈っているという心境なので、大先生のお話を真面目に聞いていなかった。全く不謹慎であり、もったいない事をしてしまったと反省しているが後の祭りである。大先生のお話とは、合気道の大事な教えだったのである。

しかし、不思議な事に聞いていなかったはずのその大先生のお話は断片的に耳に残っており、それが出てくるのである。
最近のその例は、「心は丸く体三面に進む」「体の三角体は破れざる姿勢」「三角体は絶対不敗の構え」等である。大先生のお話が出てくる時は、自分が技に行き詰っていたり、稽古相手がこれを直せば上手くできるのにと思ったときなどのときが多い。相手が上手くいかないときは自分自身も不完全で、その不完全がここにあったのかと相手に気づかされるのである。

具体的な例として説明すると、いつものように片手取り呼吸法を自主稽古でやっていると、相手は両足で踏ん張って手をつかうので、足は撞木でつかうといいと注意した。そうすると相手は大分上手く出来るようになった。これは当然で不思議な事ではない。やるべき事をすれば誰でも出来るのが合気道だからである。
そこで自分自身も初心に帰って撞木足を意識して片手取り呼吸法を力一杯やると、体は三角→三角→三角の体勢で動いている事が分かったのである。そして正面打ち一教でもやってみるとやはり、体は三角→三角→三角の体勢で動いている事が確認できたのである。
図で画いてみると下記のようになる。太い線は足と腹と手が一直線に伸びる線である。この太い線から強力な力が出るのである。片手取り呼吸法や正面打ち一教はこの太線の力(気)が出ないと技にならないが、この太線の力を出すためには体を下記のように三角につかわなければならないのである。これを大先生は「△は気にして力を生じ、また、体の三角体は破れざる丈夫(ますらお)の姿勢を具備さすべく、この鍛錬により光と熱と力を生ず」(合気神髄P52)と教えておられるのである。ここでようやく合気道の技は三角法・三角体でつかわなければならないことが分かった次第である。
尚、この三角法・三角体は剣が分かりやすい。三角→三角→三角に体をつかう三角法になっている事を実感できるのである。

しかし、この三角→三角→三角で正面打ち一教や片手取り呼吸法をつかうと上図のような△の形の姿勢が変わっていくのであるが、何か不自然な感じがするのである。そして分かった事は、上図の三角法は剣ではつかえるが、合気道の徒手では一部変わる事である。それを記すと下図のようになる。
剣は左右の手で持ち続けるので、左右の手が結んだ状態で剣も合気の技をつかうが、合気道の徒手の手は離してつかうので、左右の手が離れるわけである。しかし、左右の手はこの三角法にあるように三角に繋がっていなければならない。徒手の繋がっていない左右の手をどうすれば繋がり、結ぶことができるかということである。
それがである。が手の代わりに他方の手と繋がり結ぶのである。
左右の手をで結ぶためには、他方の手や足からも相応の気が出なければならない。相当な鍛錬が要るのである。上記での大先生の「△は気にして力を生じ」はこの事に相当すると考える。
三角法・三角体の鍛練が大事であるということである。