【第908回】 出てくる問題に向き合う
年を取ってくるといろいろな問題に悩まされる事になる。若い内には想像もできない事や若い頃には全然問題ではなかったものが問題になる事などである。年を取って悩まされる問題は人によって違うが、共通する問題もあるだろう。だから他人から問題解決法を学ぶ事ができるはずである。今では90歳、100歳以上の多くの方が元気で楽しく暮らしておられるのをテレビや紙上で知る事ができ、非常に参考になる。
年を取ると誰でも高齢による問題を持つことになる。その問題に対して何もしないのも、薬やマッサージや医者に頼るのもいいだろうが、武道家としては自分で何とかしたいものである。そうでなければ武道家の誇りなど無くなるだろう。
まずは問題に向き合わなければならない。問題に向き合うとは、問題を無視したり逃げない事であり、対処することである。対処するとは、問題の原因を探し、その解決法を見つけることである。合気道の技づかい、稽古法と同じである。故に、合気道の稽古をしっかりやっていなければ、高齢による問題解決も難しいことになるだろう。
70歳を超えた頃からの自分自身に出てきた問題を振り返ってみると次のようなものがある。その問題の原因と対処法も記す。
- つまずきである。道を歩いていて、ちょっとした凸凹に爪先を引っ掛けてしまいつまずくようになったのである。特に、和服で草履を履いて歩くと頻繁につまずくようになった。
そこで足腰を鍛えるべく、散歩をしたり、階段の上り下りをしたり、合気道の稽古でも足腰を意識して稽古した。
- 膝痛である。技の稽古中や街を歩く時、膝に激痛が走ったのである。原因は、これまで酷使してきた疲れと筋肉の衰え、それに体の誤ったつかい方であった。つまり、体の裏側を使っていたという事である。
そこで体の表、膝の裏側や腰や背中側をつかい、鍛えるようにした。
- 腰痛である。膝同様、技をつかうと腰に激痛が走ったのである。原因は、動かす用と動かしてはいけない体を誤ってしまったことである。用である腹ではなく、体である腰を動かして使ってしまったのである。取り分け、腹筋運動を間違ってしまい、ひどく腰を痛めてしまった。
- ふらつきである。歩いていると歩が定まらずふらつくようになった。酔っぱらって歩いているようになるのである。酔っぱらいのように酷くはないので周りの人は気がつかないようだが、気持ちのいいものではない。
原因は、心の思うように体が動いてくれないことである。以前なら無意識でもしっかり問題なく歩けたわけだが、意識しなければ歩けないようになったのである。ここで普通の高齢者は杖をついたり、歩行器具などに頼ることになるのだろう。これが老化ということだろうと思った次第である。
そこで、これは手ごわい問題であると実感し、普通の解決法などではこの問題は解決できないだろうと思い、考えた末、合気道の教えをつかわせて貰う事にした。
それは自分自身以外の力をお借りすることである。天地宇宙の力をお借りするのである。己を天と地に結び、天の力と地の力で歩き、動くのである。天からの気を頭にめぐらせ、そしてその気を天に返し、また頭に戻すを繰り返すのである。頭で歩くといってもいいだろう。足は地を踏み気を地に下ろし、そして地に下りた気を足に戻しを繰り返すのである。この天と地の交流によって天と地と己が一体化し、自分で動いてふらついていた歩みや動きから脱却したわけである。
- 暗い顔付になることである。稽古年数が人より長くなり、段も上になると、不思議と顔つきが険しくなるのである。顔が暗くなるから、人間も暗くなるのである。
己自身はそれほど重症でもなかったのは、以前からそれを周りの稽古人で見て、そうならないようにと気をつけていたからであろう。
また、暗い顔、険しい顔に何故なるのか、どうすればそれを解消できるかを合気道で教えて貰っていた。
それは、人は物質文明の競争社会にいると険しい顔になるということであるから、物質文明から精神文明の他者との競争のない生き方、稽古の仕方をしなければならないわけである。合気道の稽古でも相手を意識した相対的な稽古から自分自身と戦う絶対的な稽古、幽界の次元の稽古に入らないと険しい顔付を変えることはできないのである。
もう一つの暗い顔付脱却法がある。それは顔面の目(体の裏)で見ないで後頭部(体の表)から見るようにすればいい顔つきになる。また、草花の心がわかるし、草花との交流もできる。また、お日様を見るのはそれで見ないと目を傷めるだろう。
- 気力と体力の減退。これは誰にでもやってくる普遍的な高齢化問題である。上記の問題はこれに含まれる。この問題を完全に解消することは出来ないが、減速したり、改善したり、更に強化することができると合気道では教えている。それは何かというと「禊」である。毎日の禊である。体と心を禊ぐのである。合気道こそは禊なのである。合気道をしっかり修業すれば年を取って出てくる問題と向き合い、解決できるということである。
Sasaki Aikido Institute © 2006-
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