【第907回】 両手を一つにつかう

合気道には両手取りの技があるが意外と難しい。大体は片手取りと同じようにやってしまい、両手取りの稽古にならない。武道は刀を差した侍の時代に生まれたものだから、片手取りにも両手取にも意味があるはずだ。両手取りは両手取りで身につけなければならないと考える。
しかし両手取り、両手つかいは中々難しい。これまでいろいろ試行錯誤してきたが、最近、少しその難問も氷解してきたので記すことにする。

第642回「両手を同時につかう」で、両手のつかい方について、「つまり、両手は同時につかい、そして陰陽でつかうということになるだろう。」と書いた。両手は同時に陰陽でつかわなければならないと予測していたわけである。
あれから6年近くが経ったわけだが、ようやく両手のつかい方が分かってきたようだ。それが分かったきっかけは正面打ち一教が上手く出来るようになったことである。それまで正面打ち一教が上手く出来なかった大きな原因の一つが両手のつかい方にあったことに気がついたのである。また、後輩の正面打ち一教を見ると、ほとんど上手くいっていないが、その上手くいかない原因は、この両手のつかい方にあることがよく分かる。

両手のつかい方には二つある。一つは両手を掴まれた場合のつかい方である。両手取り入身投げ、天地投げ、後ろ両手取り小手返し等である。
二つ目は片手で相手と接する場合でも、両手をつかわなければならないが、その場合の両手のつかい方である。その典型的な技は片手取り呼吸法や片手取り隅落とし等の片手取りである。

両手を掴まれた場合も片手で相手と接する場合も両手をつかわなければならない。片方の手に仕事がないからといって遊ばせていては駄目だという事である。つまり、すべての技(含む呼吸法)で両手をつかわなければならないのである。
それでは両手をどのようにつかえばいいかということになる。
一言で云えば、両手は一つに動かなければならない。それが一番よく分かるのが正面打ち一教である。右半身で右手が出ると同時に左手が出ていなければならないのである。もし左手の出が右手と一つにならずシンクロして出なければ強力な相手の手を押えることは出来ない。先述の初心者の問題である。
但し、両手は一つに動くが、この両手は陰陽で動かなければならない。陽は仕事をする手、陰は次の陽の仕事をするために待機している手である。
しかし、両手を陰陽でつかうのはそう容易ではない。相手と接している箇所を動かしてはならないからである。これは合気道の技づかいの法則であり、公理である。接点を動かさないで、相手が倒れるようにするのである。そうしなければ技にならないからである。
接点を陰陽で動くようにするのは足であり、その足を動かすのは腹である。つまり、手は腹と足の陰陽で動くのである。だから手の接点を動かさなくとも相手は倒れるわけである。

技が上手く決まっているときの両手を見ると、両手同士はしっかり結び合っており、一緒に一つになって動いていることが分かる。
両手を一つに動くのは法則であると自覚する。