【第831回】 高齢者病への対処法
高齢者になると、体が衰え、体調が不調になり、それまでのように元気で力一杯生活できなくなってくるし、体調不良を起こす高齢者病にかかるようになる。人によるだろうが、私の場合は、80歳で高齢者病に取りつかれ始めた。若い内は、頭で分かったつもりでいたが、実際に年を取らなければわからないものである。だから、それにかかった時はちょっとびっくりしたし、これで好きな合気道も出来なくなるのか等と心配したものである。
しかし、有難いことに次々と襲ってきた高齢者病に何とか打ち勝つことができたようだ。それに負けず、打ち勝つことが出来たのは、これまで修業してきた合気道のお蔭であった。合気道の教え、技や体づかいに従ったからなのである。
80歳で体調が変わった。朝の禊ぎで水をかぶらなくなったし、道場稽古が終わった後のシャワーも浴びなくなった。これまでは水を浴びるまでが稽古・修業であるとしていたが、すっぱり止めた。そして80歳からは無理をしないことにしようと決めたのである。
体調が変わったのは他にもある。80歳になってまだ一年も経たないが、次のような高齢者病に冒され、そしてそれらの病に対処したのである。
- 足の弱り:急に街を歩いていて躓く(つまずく)ようになったのである。はじめは和服を着ての草履での躓きだったので、草履のせいだろうと思っていたが、洋装の靴でもつまずくので、これは問題だと気がついたのである。今振り返ってみると、道場の畳(マット)でも時々躓いていたようだ。
躓かないようにしなければならないわけだが、その為には躓く原因を知らなければならないのでいろいろ考えてみた。結論が出た。それは足腰が弱ったということである。合気道の稽古をしているので、まさかとは思ったが、稽古だけでは不十分であるということが分かったわけである。そこで足腰を鍛えなければならないと考えた。①道場稽古で引き続き足腰が鍛えられるように意識して稽古すること ②歩く事。一日一時(2時間)歩くようにする ③駅やデパート等はなるべく階段つかうこと ④家では段差を利用して足腰の鍛練をすること。また、シャワーや風呂に入る前には、風呂桶を利用して上り下りをして足腰を鍛えること等
- 頭のふらつき:80歳の夏に頭がふらつくようになった。頭がふら付き体がしゃきっとせずに、真っすぐに思うように歩くことが出来なくなったのである。首を回して左右を見ることも出来ず、頭を揺さぶらないように歩かなければならなかった。そこで考えたのは、この原因は、暑さのための塩分の取りすぎとビールなどのアルコールであろうと考え、塩分を控え、そしてアルコールを止めた。食料品を購入する場合は塩分容量をチェックし、ビールはアルコールフリーにした。お陰で大分よくなった。
しかし、まだちょっと頭のふらつきは続いていたのである。頭に何かがあってもやもやしていて、すっきりしないのである。
このもやもやはどういうことなのか、どうすれば取り除くことができるのかを考えてみた。そこで思いついたのは合気道の教えであり、過っての体験であった。
合気道の教えでは、技をつかう際、天の気に合わせて天の呼吸と地の呼吸をしなければならないのである。そこで念で己の気を頭に集め、その気を天に向け、天の気と結ぶようにし、そして天の息(アー)と地の息(オー)で気の交流をしたのである。天の気と己の気が交流出来ればいいと思ったからである。そう思った理由は若い頃の体験である。若い元気な頃の夏、ドイツのビアガーデンでビールを炎天下で飲み、炎天下を歩いて帰宅する途中、突然倒れてしまったのである。怪我しないようにしようとか、何かにつかまろうなどなどの余裕がなく、突然起こったのである。倒れると、過去の映像がフィルムのように回り出した。そして突然、そばに駆け寄ってくれた女房の声に目が覚めたのである。後で、この時の突然倒れたのは、この天の気との結びが突然切れ、天との交流がなくなってしまったからだと思ったのである。人と天とは気の交流をしており、この交流が切れた時、人は死ということになるわけである。つまり、天との気の交流が正常ならば、人は正常に暮らせるし、不完全だと不完全ということになるわけである。合気道の天の気と天地の呼吸の教えにで助けられたわけである。
- 体の痛み、目鼻耳等の衰え:年を取ってくると、体が万全であるなどなくなってきて、どこかが痛いとか、だるい、重いということになる。視覚、嗅覚、聴覚も衰えてくる。これらの衰えに対する完璧な対処法はないだろう。衰えるのは自然だし、宇宙の法則なのだろう。しかし、この衰えを減速したり、和らげることは出来るし、やってもいいだろう。
それを合気道の技と体を練る方法をつかってやっている。イクムスビの息づかいである。イーと息を吐き、クーで息を引き、ムーで息を吐く息づかいで、体の痛む箇所、衰えの箇所に息(気)を送るのである。これで体調は大分よくなるようである。
この他にも一般的な高齢者病には食欲減退とか生きる気力の減退などがあるだろうが、私はまだこの病気にないようなので省略する。
最後に高齢者病に一言。高齢者病は命に関わるほど大変な病であるが、うまく対処できれば良い体験になる。今になって思えば、それは何かから与えられた試練であったように思える。お陰で生きる知恵がついたし、合気道の精進にも役立っている。
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