【第710回】 強靱な手と足を連動してつかう

前回の第709回「強靭な手をつくる」で書いたように、技を掛ける際は、手は名刀のように強靱でなければならない。折れ曲がるような鈍刀の手では技は上手く掛からない。とりわけ正面打ち一教ではそれがよく分かる。正面打ち一教が難しい原因の一つが、手が十分に強靱でないことと書いた。
強靱な手とはどんな手かというと、下の写真にあるような手である。過って本部道場で教えておられた有川定輝先生の手である。力強く、強靭で、折れ曲がらず、名刀のような美しい、又相手と一体化してしまう手である。
合気道は相対での形稽古でこの手をつくり、つかっていくわけだが、これが中々難しい。相手がいるとどうしても相手を投げよう極めようとしてしまうので、形が崩れ、名刀の手をつくることが忘却の彼方にいってしまうのである。
それ故、まずは一人稽古でやってみるのがいいだろう。

この名刀のような手をどんなものか感じ、そしてその手をつくる方法は以前にも書いたと思うが、次の様にすればいいだろう。

  1. 手を、息を吐きながら前に出し伸ばす。剣を構える手である。
  2. ここから息を十分引きながら手を更に伸ばし、強靭な手にする。(そして相手の手と十字にし、手先に己の体重がのるようにする)
  3. ここから手先にさらに気と力を入れて、更に手(この場合、前の右手)を強靭にす(写真 左下)
  4. 上記の3での接点を動かさずに、重心を右足から左足に移し、体を相手に向けると、左手が強靭になる。(写真 右下)
    後は、腹から阿吽の阿で息を胸から横に引き(入れ)、そして息を吐きながら、この強靭な手に体重を下に落していけばいい。
ここまではこれまで書いてきたことで、それを少し詳しく書いただけであるが、この写真を見ても分かるように、強靭にしてつかうものは手の他にもう一つある。それは足である。
足も手と同じように強靱でなければならないのである。

足も手と同じく、息に合わせてつかわなければならない。吐いて(イ)→吸って(ク)→吐く(ム)のイクムスビ、又は吽→阿→吽の阿吽の呼吸に合わせるのである。吐いて足を地に下ろして張り、吸って足を更に張って地を蹴り(上記の左の写真)、吐いて足を地に下ろして張る(上記の右の写真)と続くわけである。尚、足の緩みは、張る足が右左に変わる、反対側の時に出来る。

これまで手と足は同じ側が一緒に働くようにしなければならないと書いてきた。実際、この法則でやらなければ、技は上手く掛からないはずである。両手取り(天地投げ、四方投げ、呼吸法等‥)でこの法則が身に着くように稽古することである等と書いてきたはずである。

今回、これに加えて更に手と足が連動してつかわれなければならないことが加わったのである。
手と足の強靱と弛緩の連動である。手が強靭になれば同じ側の足も強靭になり、手が弛緩すれば同じ側の足も弛緩と連動するのである。そしてこの連動は息づかいによって行うのである。息を引けば強靱に、息を吐けば弛緩にである。

手と足が強靭と弛緩と連動してつかわれなければ、技は効かないわけだが、日常生活でも問題が起こる。
街を歩く高齢者の歩き方と若者の歩き方を比べてみるといい。高齢者は足を地に着く時こわごわ下ろし、地から足を上げる時も弱弱しく(弛緩)上げる。勿論、手も強靭ではないし、足との連動もない。
若者は、この高齢者の歩き方とは逆であり、安心して見ていられる。

有川先生のような技が遣えるようになるためにも、高齢になってまともに歩けるためにも、強靭な手と足を連動してつかうようにしたいものである。