【第550回】  掴むな、離すな

稽古で受けを取っていて、これでは相手が掛けているこの技は効かないなと思うことが度々ある。その内のひとつが、受けを取っているこちらの腕を力一杯掴むことである。例えば、正面打ち一教でこちらの腕を掴んで倒そうとすることである。腕を掴んで力を入れればいれるほど、その力は受けを取っているこちらには伝わらず、掴んでいる本人に戻っていってしまい、無駄な力になるのである。また、掴んでしまうと、自分が動けなくなり、呪縛になるのでご法度である。
開祖の口癖のひとつに、「力を入れて掴んだら、もう負けだ」(『合気道一路』p 191)があり、掴むことを戒めているのである。

それでは腕を掴まないで、技を掛けるにはどうすればいいのかということになる。正面打ち一教で、相手の打ってくる腕を掴まないで、収めるにはどうすればいいのだろうか。
正面打ち一教は、腕で打ち合い、腕で技を掛ける。相手の腕を掴まないが、あくまで腕で技を掛けるのである。

技が掛かるためには、技を掛ける腕(手)は、相手の腕と常に接していなければならない。その接している腕の部位は手刀である。手刀を縦横十字につかって、相手を導くのである。
稽古を積んでいくと、手刀に引力が備わってきて、手刀で接するだけで相手の腕、そして体を制することができるようになる。掴む必要などないのである。また、この手刀がつかえるようになると、二教も三教も自由につかえるようになる。つまり、一教などで、相手の腕を掴んでいる内は、一教も二教も三教も上手くできないことになる。

さて、相手の腕を掴んではいけないが、また、相手の腕を離してもいけないのである。開祖は、「技では相手の腕を最後の最後まで持ち続けて気を抜くな」とも言われているのである。ここで「持ち続ける」とは、勿論、掴むことではなく、相手と接し、離さず、相手を保持することである。先述のように、手刀で持ち続けることもあろうし、手刀から小指に移し、小指や薬指で引っ掛けたりしながら「持ち続ける」のである。また、小手返しのように、手刀から小指、そして親指に移動しながら持ち続けることもある。

更に、相手を小手返しなどで投げたり、一教で決めたりしても、相手の腕を離さず、まだ持ち続け、最後の抑えまで、気を入れて持ち続けなければならないのである。

この掴まない、そして離さない、という異質のものが表裏一体になっているのは、矛盾であるが合気道らしく面白い。