【第274回】 最高のことをやる

合気道は一般的に、合気道の技の形を通して相対稽古で技を練磨して精進していく武道である。ふつうは道場に通って、週に何日か、各1時間か2時間の稽古をするのだろう。忙しい世の中にあって、それだけの時間を取るのさえ難しい時代だから、できる範囲で精進していくしかない。

限られた時間しか道場に通う事ができないのだから、上達は容易ではないはずだが、誰でも上達したいと願って稽古していることだろう。上達している、または上達するだろうと思って稽古している間は続くものだが、その希望がなくなると稽古は続かなくなるようだ。

では、短い稽古時間で上達するにはどうすればよいか。希望や願望だけでは、上達はしないだろう。上達するための努力をしなければならないはずである。

短い稽古時間でも上達していくポイントは、「自分の最高のことをやる」ことではないだろうか。

「自分の最高のこと」というのは、今まで培ってきたことを駆使し、それを最高レベルで活用し、駆使するということである。これで、稽古をやっていくのである。相手が強かろうが弱かろうが、上級者であろうが初心者であろうが、相手や周りに関係なく、自分ができる最高のことをやっていくのである。最高のことというのは、自分がそれまで培ってきた技や、体遣い、息遣い、感覚、意識、知識、思想等などの最高レベルを駆使するということになるだろう。
しかし決してそれで満足してはいけない。最高のものとして完成したと思っても更なる最高がある。最高の完成から更なる完成の道を進まなければならない。

開祖はご自身で、常に、我々に最高のものを示されていた。そして更なる最高のものを示されていた。完成を目指し更なる完成を目指しておられた。
開祖と我々ではレベルに雲泥の差があるが、開祖を見習って、常にどんな場合でも最高のことをやっていくことは、合気道同人として継承していかなければならないだろう。

稽古で最高のことをやる習慣がつけば、稽古時間だけでなく、演武会や講習会でも自分の最高のことをやるようになるはずである。手を抜いたり、自分の得意なことや、やり慣れたことだけをやるようなことは、なくなるはずである。

また、会社の仕事でも、自分のすべてを出し切っての最高の仕事をするようになるはずです。気を抜いたり、出し惜しみしてはいけない。もちろん道場の相対稽古でも、たとえ初心者や後進とやる場合であっても、出し惜しみしたり手を抜いたような稽古をやってはいけない。

最高のことをやるということは、自分の限界でやることであり、またその限界を乗り越えようとすることである。であるから、それは自分の上達と進歩に繋がるということになる。

上達・進歩とは、自分のレベルが上がっていくことである。これは、自分の殻を脱皮していくことでもある。新しい事に対する挑戦である。挑戦であるからには、自分を出し切り、自分のすべての能力を駆使しなければならないだろう。

何時もうまくいくとはかぎらないし、失敗の危険や、できるかどうか分からない不安もあるはずだ。それに打ち勝って、新しい事、自分への挑戦をしていかなければならない。できる事、得意な事、やり慣れていることだけの殻に閉じこもっていては、進歩、上達はない。

常に最善を尽くし、自分の最高に徹することであり、そして更なる最高を目指すのである。それには、まず合気道の稽古からはじめるのがよいだろう。