【第185回】八大力

合気道の技の練磨で重要なことのひとつに、すべてのものに陰陽などの対称があって、そこに対称力が働いていることを知り、それを技に取り入れていかなければならないということがある。

上があれば下があるし、表があれば裏がある。その他、左右、前後、軽量、強弱、硬軟、動静、遅速、大小などなどまだまだ沢山あるだろう。この陰陽の両極にある対称間に働く力を、対称力といえるだろう。従って、多くの対称力が働いていることになる。これを、開祖が言われる「八大力」ではないかと考える。尚、「八大力」の「八」というのは多くという意味で使われていると解釈できる。

合気道の相対稽古で、相手に技を掛ける時、うまく掛からないことがあるが、この八大力の陰陽のバランスが取れていないことによることが多い。例えば、たいていの初心者は力を出しすぎてしまうか(陽が強い)、引いてしまうものだ(陰が強い)。それによって、相手はその力に負けまいと頑張ってくるため、崩れず、技が掛からないことになる。技を掛けるときには、陰陽兼ね備えた、そしてベクトルのバランスの取れた力を遣わなければならないことになる。

なお、頑張るということは陰陽のバランスを取ろうとする自然の理であり、宇宙の法則の一つであるわけだから、宇宙の視点で見れば、相手が頑張るのを一概には批難できないかも知れない。

上下、左右、前後、表裏の力のベクトルがバランスが取れた処に、エネルギー(力)ができる。一方だけのベクトルでは、真の力は出ない。例えば、持たせた手をただ一方に遣っても、切れてしまったり、抑えられてしまうが、出すのと引くのとを兼ね備えた力、つまり遠心力と求心力を兼ね備えた力を遣えば、引力のある強力なエネルギーを出すことができる。

より強力な陰陽の八大力を養成するためには、八大力が働くベクトルの両極をどんどん広げることであろう。例えば、体を頑強にするとともに柔軟にする。少しでも速く動けるように、そしてゆっくりも動けるようにする。自分の体重を軽くも重くも自在に操作できるようにする。技はがっちりも柔らかくも、また大きくも小さくも、自在に掛けられるようにする、等などである。

一面だけでの稽古をしていたのでは、対称力である八大力が養成されない。八大力を少しでも多く身につけ、そしてそれらの両極のベクトルを少しでも拡張し、しかも陰陽のバランスが取れるように鍛錬しなければならない。両方の陰陽のベクトルのバランスが取れれば、その中間は0(ゼロ)であり、「無」となる。磁石のN(北)とS(南)の中間を考えればよい。恐らくは+でも−でもないが、一番大きいエネルギーを有しているはずである。

開祖は、合気道は「まず、天の浮橋に立たなければならない」と言われるが、このすべての八大力の0(ゼロ)の「無」になったところが「天之浮橋」だろう。 技は「天之浮橋」を起点とし、八大力の陰陽を調節しながら掛けていかなければならない。開祖は、相対稽古で相手に技を掛けて、技を磨くに当たって、この天の浮橋の「無」から陰陽を適度に調節して技を磨いていけといわれている。これを開祖は、「自分で八大力の修行をして、陰陽を適度に現わし、魂の霊れぶりによって練磨し、この世を浄めるのです。」(「武産合気」)と言われているのである。

技は、八大力を養成し、天之浮橋に立って、そして八大力の陰陽を調節しながら練磨しなければならないということになる。

参考文献  『武産合気』(植芝盛平先生口述 高橋英雄編)