【第899回】 離るべからず

気や魂がおぼろげながらわかってくると技が変わってきた。変わったことにはいろいろあるが、その内の一つに、攻撃してくる相手との接点が切れたり、離れなくなってきたことである。引力でくっついて離れなくなるのである。くっついて離れないと、その接点にこちらの体の力(腹の力)がのり、相手と一体となる。一体となるから相手を己の分身として自在に導くことができるようになるわけである。これは己の以前と今での大きな違いである。
要は、相手が打ってきたり、掴んでくる手を弾いたり、無暗に動かしたりしないで、密着し、くっつけて、そしてその接点が離れないように技を収めなければならないということである。逆に言えば、相手との密着がなくなり、相手の体から離れれば技にならないということである。離れれば攻撃の相手は自由の身になるので、こちらの自由にならなくなるし、悪さもしてくることになる。
大先生は「道は身に血が巡りみつるように、すべての真理を悉く腹中に体蔵して言あげせず、身にしみこませて離さないことです。道は離るべからず。離るべきは道にあらず。この道は実に厳固として必ずなすべきことであります。」(武産合気P.35)と教えておられるが、これが相手の体から離れれば技にならないの教えでもあると実感できる。

初心者を見れば、相手と離れてしまっていることがよく分かるが、己自身もそうやっていたから上手くいかなかったわけである。故に、その上手くいかなかった原因、つまり何故、相手との接点が切れ、離れたのかがよく分かる。それは次のような事ではなかったかと思う。
一つは、手で技を掛けていた事である。手を振り回していたので接点から離れたわけである。
二つ目は、相手を倒そう、決めようとして技と体をつかっていたことである。
三つ目は、魄の稽古をしていたこと、顕界の次元の稽古にあったことであっる。

それでは相手と離れないためにはどうすればいいのかということになるが、次のようである。
一つ目は、意識することである。接点に離れないように意識を入れるのである。
二つ目は、息で技と体をつかい、息で接点を離れないようにすることである。
三つ目は、気を出し、気で接点をくっつけて、離れないようにすることである。
四つ目は、空の気と真空の気から魂のひれぶりを興し、この波動でくっつけ、離れないようにする事である。これが離れないための最高のものと確信する。