【第836回】 一つになる

合気道の相対稽古で技を掛ける際、手や足や体をばらばらにつかってはいい技は生まれない。手も足も腰腹と結び、ひとつになって動かなければならない。先ずは、手と足を腰腹と結び、腰腹で手足をつかうように、意識して体をつかうことである。同じ側の手と足が陰陽で働くようにするのである。体が一つになることである。
次は、息でこの一つになった体をつかうのである。息に従って(導かれて)手、足、腰など体をつかうのである。
しかしながら、この段階では体が十分にひとつになっていない感じがするはずである。体のどこかに隙があったり、邪魔するモノがつかえたりしているのである。これを合気道的に云えば、気が通っていないということである。気が途切れているのである。その気の途切れによって体が一つになっている感じがしないのである。

そこで息に代えて気で体を一つにしてつかうのである。気を体に満たし、気で手足を導き体をつかうのである。気が手足体に満ちると体は一つになる。それは誰でも実感できるはずだし、大きな力が出、技が効くようになるはずである。

更に、気が体に満ち、気が出てくると、相対稽古相手と結び、くっ付けてしまい、相手の体も一つにしてしまう。相手の体がばらばらに働いている間は、相手を制したり導くことは出来ないので、相手を技で導いたり、倒したり決めるなら相手をも一つにしてしまわなければならないことになる。

相撲の世界でも体をひとつにつかう、均一につかう事が大事であると松田哲博氏(元一ノ矢・相撲探求家)はいう。これを氏は“一”の動きという。
氏は、「全体が均一に、どこにも力みなき淀みない動きは、見た目にも美しく、しかも最も強い形です。その“一”を体得するために四股を踏むのだと思います。」、また、「四股を繰り返すことによって、表面の筋肉や深層の筋肉、さらには細胞のひとつひとつを均一にならしていきます。一部分の筋肉に負荷をかけ、筋繊維を破壊することにより筋肉を太く大きくしていく筋トレでは得られない気持ちよさと、芯の強さをもたらしてくれます。」
更に氏は、「40年余り四股を踏んできたいま、限りなく“一”に近づけるために四股を踏むのだと感じます。それが、心気体を一致させることなのでしょう。」といわれている。まずは、体を“一”に近づける、そして次に、心気体を“一”に近づけるということであろう。

そこでこの件に関して、何か大先生の教えがないか調べてみると次のようなものがあった。
「一.己の心を、宇宙万有の活動と調和させる。
 二.己の肉体そのものを、宇宙万有の活動と調和させる。
 三.心と肉体を一つに結ぶ気を、宇宙万有の活動と調和させる。
であるが、この三つを同時にかね行うことが必要である。」(合気神髄P.177)

つまり、肉体を一つにしてつかうためには、まずは心を宇宙万有の活動と調和させ、己の肉体を宇宙万有の活動と調和させ、そして心と肉体を一つに結ぶ気を、宇宙万有の活動と調和させなければならないということである。
という事になるわけで、体をひとつにつかうのも、合気道では宇宙規模なのである。

参考資料  「四股鍛錬で作る達人」松田哲博(元一ノ矢・相撲探求家)BABジャパン