【第740回】 魄の力から魂の力へ

合気道は先ず体をつくり、力をつけなければならない。これがしっかりしていないと次の次元の魂の修行に入れない。これを大先生は、「肉体すなわち魄がなければ魂が座らぬし、人のつとめが出来ない。合気は魄を排するのではなく土台として、魂の世界にふりかえるのである。」と云われている。
土台になる体をつくらなければならないのである。しかし、この段階での力は弱いと、「物の技は力少なし、武の魂魄阿吽をもって自己の妙、明らかなる健やかなる力をつくることこそ合気の道である。(合気神髄 P.160)」と、魄の力はまだ弱いと云われているのである。

それでは魄の力と魂の力の違いは何かということになる。一言で云うと、魄の力は“出す力”、魂の力は“出る力”と言えるのではないだろうか。魂の力は、体を科学して出てくるモノである。体を宇宙の条理・法則に合してつかえば出てくる力ということである。

これを一教運動(右半身)でやってみると次の様になる。

  1. 後ろ足に天の息(吐く息)で気を地に落すし、足底を左に返すと
  2. 右足の踵と小指球・母指球、そして爪先が地に着く(ここまで吐く息)
  3. 息を吐いて爪先が地に降りると力の抗力で気が爪先に返ってくる(月の息)
  4. この地からの抗力に合わせて息を引く(吸う)とその気が腹に流れ、爪先と腹が結ぶ
  5. この状態から、支点として使いたい足首、膝、腰、腹を決め、そこを土台に天の浮橋とする
  6. 足首、膝、腰、腹はいずれも下肢の土台となり、ここを支点として上下の陰陽、そして左右の十字に働く。
    例えば、足首なら足首の先が地に気と力が下り、同時に足首から上に気と力が上がってくる(写真)。そして技を収める際は、下に降りた気と力が足首の土台に上がり、足首から先に上がった気と力が下がり土台で一つになる。
    これが最も分かり易いのは“腹”であろう。腹を土台・支点として気と力を下に下ろし、上に上げるのである。引く息(地の呼吸)が働いて、腹から下と上に分散するのがよく分かる。
尚、下肢の足首、膝、腰、腹が支点の土台になると同様、上肢の手首、肘、肩、胸がこれらの下肢の部位と結んで動くことになる。初めは上肢の各部位がしっかり働かずにでれっとしてしまうだろうから、手首、肘、肩、腹を意識して、気を入れてつかうといいだろう。

また、合気の力は一方的な力ではなく、上下、陰陽という二方向、相反する力の力であるということである。魄の力は一方的な力であり、出す力となり、これが力少なしの力ということだと考える。
魂の力は、体と息を科学して出てくる力であり、これが大先生の言われる「自己の魂は、心体を科学して出てくる」ということではないかと思う。